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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第二章 カセイデミル
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コミュニケーション

「島田さん」

 赤城恵一が島田夏海の前に立ち、不意に声を掛けた。

 気が付いたら彼女の周りを、五人の男子高校生たちが囲んでいる。この事実に夏海は一瞬戸惑い、回りを囲んでいる異性の顔を1人ずつ見る。

「滝田君。谷口君。矢倉君。多野君。赤城君。皆揃ってどうしたのですか?」

「島田さんに聞きたいことがあったんだ」

「私に聞きたいこと?」

 島田夏海は可愛らしく首を傾げる。一方の赤城は焦っていた。最初に声を掛けたのは良かったが、その次の言葉を考えていなかった。

 そんな赤城の失態をフォローするように、多野が口を開いた。

「俺たち全員で節子ちゃんのお見舞いに行きたかったんだけど、迷惑か?」

「そんなことないけど。だったら今日の放課後に来て。節子も喜ぶと思うから。悠久中央病院ね」

 赤城は彼の目的が理解できず、右隣りにいる多野に耳打ちした。

「多野君。これはどういうことだ」

 小声で聞こえた問を聞き、多野は不敵な笑みを浮かべ、言葉を零した。

「故に其の疾きこと……」

「風の如く」

 まるで早押しクイズに答えるかのように、島田夏海が多野の言葉に続けた。

 それから彼女は多野の顔を見ながら目を輝かせる。

「風林火山の原文を知ってるなんて凄いよ。普通の人は略して疾きこと風の如くって言うのに」

 黒髪を七三分けにした少年、谷口宗助はチャンスだと思い右手を挙げた。

「そういえば島田さんは武田信玄が好きでしたね」

「そうよ。川中島合戦なんて最高じゃない」

 谷口に続くように、彼の隣に立つ寝ぐせが目立っている黒縁眼鏡の男、滝田湊も手を挙げた。

「川中島といえば、信玄公と上杉謙信の闘いでしたな」

 滝田が一般的な知識を披露する。その知識に島田夏海が笑みを浮かべた。

「そうよ。この程度は一般教養の範疇だから知らない人はいないよね」


 一方黒い髪を角刈りにした高身長の男、矢倉永人は焦っていた。歴史に無頓着な彼は会話に参加することができない。

 彼は、ただライバルたちの会話を聞くことしかできない。

 その矢倉を赤城は気にかけ、優しく声をかけた。

「そういえば矢倉君も歴史が好きだったな。確か山本勘助が好きだって言っていなかったか」

 赤城の話を聞き、島田夏海は矢倉の顔を見る。

「本当。矢倉君は信玄公の軍師が好きなのね。風林火山と啄木鳥戦法。どっちが好き?」

 マニアック過ぎると矢倉は思った。だがここで答えなければ、赤城のフォローが水の泡になる。矢倉は目を瞑り、一歩を踏み出した。

「俺は啄木鳥戦法が好きですね」

「そうなんだ」

 島田夏海は矢倉の答えを聞き、笑顔を見せた。


 一方三好勇吾たちは、四列目の一番後ろの席に座る堀井千尋の周りを囲んでいた。

 堀井は机の上で本を読んでいる。その本のことが気になった三好は彼女に尋ねた。

「堀井さん。何を読んでいるんだ」

 その質問を聞き、堀井千尋は小刻みに震える。彼女の周りには、野球部らしく頭を丸めた市川陸と彼と同じ髪型に右頬に小さな黒子がある島崎海斗が立っている。

 突然周りに3人もの異性が自分を囲むという現実に、堀井千尋は恐怖を覚え、質問に答えなかった。

 その様子をロッカーの前に立っている村上と櫻井がヒソヒソ話をしながら、見ている。

 

 1分後。チャイムが鳴り、教室のドアが開いた。そこから担任の秋山先生が顔を出し、教卓の前まで足を進める。

「全員。席に着け。ホームルームを始める」

 担任教師は教卓の前で立ち止まり、生徒たちの顔を見る。

 最初に秋山先生は1枚のプリントを生徒たちに配る。赤城が手にしたプリントには『入学式について』という文字が印刷されていた。

「最初は入学式についてだ。入学式は三年生がスタッフとして参加するから、二年生は自宅で自習してくれ。部活がないから羽を伸ばすために遊びに出かけても構わないが、課題はしっかりと提出するように」

 担任教師の話を聞きながら、生徒たちはプリントに目を通す。

 それから秋山先生は黒板と向き合い、チョークで大きく文字を記した。

『課題。数学ワーク。一年生の復習。P2~P9まで。英語問題集。P2~P7まで』

 担任は黒板を二回叩く。

「これが課題だ。休み明けの水曜日の早朝に提出するように」

 淡々としたホームルームの時間が続いていく。


 午前11時30分。チャイムの音と共に、ホームルームは絞めくられた。

 野球部の部員たちやモブたちがクラスから出て行き、赤城は帰り支度を済ませる。

「赤城君」

 すると赤城の元へ矢倉が現れ、頭を下げた。

「さっきは助けてくださり、ありがとうございました」

「俺はただ、これ以上の犠牲者を出したくなかっただけだ」

「優しいんですね。でも忘れているかもしれませんが、生き残れるのは僕たち5人の内の1人だけなんですよね」

 矢倉が暗い表情になり、顔が俯く。

「だから変な馴れ合いは止めろって言いたいのか。だが俺は信じているんだ。誰1人欠けることなく生存する方法があることを」

「そんな夢のある方法があったら良かったんですけど、僕は明日この世界にいないのかもしれません」

「そんなことを言うな。まだ希望は……」

「きれいごとを言うな!」

 矢倉は赤城の慰めを受け入れず、声を荒げる。

「そうですよ。僕は予選の敗者決定戦で二問連続B評価の答えを選んでしまった人間ですよ。連続でB評価を取り続けたとしても、目標ラインには届きません。1週間後に僕はこの世界から消えているはずです」

 矢倉は既にゲームクリアを諦めている。赤城は彼の瞳が絶望によって暗く曇っているように見えた。

「矢倉君。まだ諦めるには早すぎるぜ」

 突然多野が矢倉の左肩を掴んだ。

「どういうことですか?」

 矢倉が首を傾げると、彼の周りに島崎と滝田が集まった。

「逆に聞こう。なんであの時俺たち全員で島田夏海の妹ちゃんのお見舞いに行くって言ったと思う?」

 その問いの答えが分からず、矢倉は黙り込んだ。

「分かりやすく説明しろ」

 赤城が多野と顔を合わせ尋ねる。すると多野は周囲を見渡してみせた。

 教室の中にいるのは赤城達を含む五人の男子生徒たちだけど、島田夏海は既に教室から立ち去ったようだった。

 この状況に安心した多野は作戦を四人に伝える。

「簡単な作戦だ。悠久中央病院に入院している島田夏海の妹、島田節子と仲良くすることで、好感度を上げよう。島田夏海の言動から察すると、彼女は妹思いの良いお姉ちゃんというところだな。妹を大切にする人だったら好感を持つはずだ。どうだ。この必勝法は。抜け駆けしたくなかったから、勝手にお前らも一緒に行くことになったが、特に予定はないんだろう」

 多野の作戦に反論する者はいなかった。


 その頃、百谷次郎と千間光彦は、校門の先へ続く真っ直ぐな通学路を横に並んで歩いていた。

「聞きましたか。悠久中央病院。そこで島田節子ちゃんが入院しているみたいですよ」

 百谷次郎が話を切り出し、千間光彦は小さく首を縦に振った。

「そうでしたね。やっぱり使えますよ。島田夏海ルートに挑む5人は」

 千春の一言を聞いた百谷は、突然立ち止まり、両手を広げた。

「早速ですが、始めましょうか。サブヒロイン攻略」

「千春君。少し早過ぎませんか。カモは利用しないと、今後大変なことになるかもしれませんよ。カモは利用できるときに利用しないと」

「石橋を叩いて渡るタイプですね」

「それで的確な答えが出せるならいいではありませんか」

「そうですね」

 千春と百谷は互いの顔を見合わせ、笑顔を見せた。2人はメインヒロインの島田節子と接触するために、悠久中央病院へと向かう


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