表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

戦士「いつからわしが死んだと思っていた?」

おお戦士よ、しんでしまうとはなさけない!

 


 暗い……


 明るい世界にいた気がする。


 今は暗い。


 いつからだろうか。


 元々は暗い世界にいたのだ。


 しかし、明るい世界に来た。


 それは幸福であったのか、不幸であったのか、今は分からない。


 分かる事は、今、暗い世界に戻って来たという事だ。


 自分で意図した事ではない。


 何者かの手によって、無理やり暗い世界に連れ戻されたのだ。


 暗い世界は辛い、苦しい、悲しい、寂しい……不幸に満ち満ちているのだ。


 怖い……


 もう沢山だ……


 こんな場所に戻りたくなかった。


 助けてくれ、誰でもいい、わしを助けてくれ!





「助けてくれ!」

 声が出た。

 声に驚き、それが自ら発した物だと理解するのに時間がかかった。

 暗い、そして狭い空間だ。

 わしは、生きているのだろうか。


 身体を動かしてみようと試みるが、身体の節々が痛んで上手くいかない。

 身体全体が焼ける様に熱くじんわりと汗を流し、それでいて凍えるように寒くがたがたと震えがとまらない。

 加えて全身の痛みであるからたまらない。


 しかし、わしは戦士、並みの鍛え方はしておらん!

 ここはどこだ!

 分からん!

 分からん事は考えるな!

 出来る事だけやれ!

 それは何だ!

 動け、わしの身体!


「ぅうぉおおおおぉぉぉおお!」

 わしは叫んだ、自らの身体に鞭撃って……

 助けてくれ、等と叫んだ事を恥ずかしく思う。

 わしは何だ、戦士、戦う者、こんな逆境等何度も超えて来た!


 動く。

 助けなど無用、何とかしてみせる!


 痛みは、ある。

 しかし動く。

 ならば痛み等我慢すれば良い。

 動け、後の事はその時どうにかすればいい!





 何かを掴むように手を伸ばし、それが空を切る。

 と同時に光の線が走った。


 瞬く間に光は世界を覆い尽くし、明るい開けた世界となる。

 眩しい、輝かしい程に眩しい。

 もしかしたらこの後、天使か、もしかしたら神と会えるのではないか、等と自嘲的に思う。





「ちょっと、大声出さないでよね、びっくりするじゃないのよ!」

 眩しさに目を細め、声の主を確認しようと努める。

 はっきりとは見えないが、シルエットからして杖を手に持ち、三角帽子を被った、全身黒で統一された装備の少女……すなわち魔法使い殿がそこにいた。


「声なんて出すから皆びっくりしてますよ、もう死人は死人らしく……ああもう生きてるんでしたっけ」

 ちらりと顔が見えるが、眩しくて見えない、しかしこの女性の声は聞き覚えがある。

 僧侶殿である。

 小さく、チッと聞こえたが何だろうか。


「おはよう戦士さん、寝起きなのにすごい元気ですね」

 男性の声が聞こえる、ごとりという大層な音がした後、顔を見せる。

 わしを覗き込み、はっきりと表情が見える距離まで顔を近付ける男。

 この人は……

「ああ、勇者殿……」

 声にならないかすれた声が、わしの口からこぼれた。


 わしは、感動にうち震えた。

 いつもの、いつもの皆さんだ。

 わしは何と愚かなのだろう、自分ひとりで戦っているつもりでいたのだ。

 こんなにも、こんなにもわしを思ってくれている人々がいる。

 それなのにわしは……


「わしは、馬鹿だ……」

 わしは自らを蔑んだ。

 こんなにも愚かで、馬鹿なわしに、どうして彼らはここまでしてくれるのか。


「あー、何も泣くことないんじゃないですかね」

 わしが泣くなどそんな事……無いと思ったが、瞳から何かが溢れ出るのを感じた。

 わしはそれを、流れるに任せた。

 身体が痛くて涙を拭うのを躊躇ったのだ、他に理由はあるかもしれないが、そういう事にしておいて欲しい。


「戦士が馬鹿なのは皆知ってるんだから、今更じゃないの、さっさと戦線復帰してくれないと壁役いなくて困るのよ」

 魔法使い殿が痛い所を突いてくる。

 この少女はいつもいつもだ、わしの背中を押してくれる。

 言葉は厳しいが、あえて嫌われ役を買って出てくれているのだ。

 やはり、魔法使いは素晴らしい。


「と言いますか、馬鹿の自覚あったんですね、その事に私びっくりです」

 この声は僧侶殿か、本当に耳が痛い話である。

 わしがいない事で、一番迷惑を掛けたのはこの人だと思う。

 少しくらい嫌味を言う権利はあるだろう、この程度ぬるい。


「すまない、皆さん、迷惑を掛けた……」

 言葉だけでは足りない、行動で示さなければならない。


「なに、仲間じゃないですか、これからも頑張りましょう!」

 わしはハッとして目を見開いた。

 仲間、と言った。

 勇者殿は、こんなにも愚かで醜いわしを、仲間だと……

 固く目を瞑る。

 何かが零れ落ちる。

 涙だ、今はそれも良い。

 過去の過ち等、涙と一緒に零れ落ちてしまえばいい。

 いつかそれが、糧となるのだ!


「勇者殿、わしは行きますぞ!どこまでも、ついて行きます!」

 わしは決意を新たにした。


「どこまでも、は困るけど……まあよろしくお願いします、戦士さん」

 勇者殿は困ったような、引きつった笑いを浮かべ、視線を逸らす。

 この勇者殿は感情表現が下手な人だ、どう言われようとわしの心は決まっている。




 手が差し出される。

「かたじけない」

 わしはその手をしっかりと掴む、仲間とは良いものだな……

 そしてその手が一気に引かれ……

「いだだだだーーー!」

 勇者殿は勢いに任せてわしを引き、起こす。

 手、腕、肩に掛けて激痛が走る。


「ゆ、勇者殿、痛いですぞ、もっと優しく!」

 逆の腕でもって摩ろうとした所、動かすのも痛みが走る事を思い至り、どうしようもない痛みにただただ立ちすくんだ。

 傍らで僧侶殿が腹を抱えて笑っている。


「あ、ごめん戦士さん、もしかして全身痛いの?」

 勇者殿が申し訳なさそうにしている。

 わしはむぐぐと堪えながら頷いた。


「ちょっと、そんなんでちゃんと宿に帰れるんでしょうね」

 魔法使い殿がやれやれとため息を吐いている。


「むう……痛みはありますが……」

 勇者殿のお陰か、立てている。

 足を動かしてみると、痛みはあるが動けそうだ。


「じゃあ、肩を貸しましょう、ゆっくりでいいですからね」

 わしはかたじけない、と言うと、それはさっき聞きました、と答える勇者殿。

 感謝の言葉が足りない気がする。

 わしは何と幸せ者なのだろうか。


「まったく、締まらないわね」

 と魔法使い殿、言葉もない……


「いやはや、戦士さんらしくていいですよお……」

 ひとしきり笑い終えた僧侶殿が答える。

 いや、まだ笑っていた、くっくっくと笑いを堪えている。

 こんなに笑う人だっただろうか、しかし笑えるのは良い。






「良いものですな、仲間とは」

 わしはしみじみと呟く。

 魔法使い殿は、はぁ、とまたため息を吐く。

 わしに肩を貸す勇者殿は、聞こえなかったのか遠くを見据えている。

 その瞳には何が映っているのだろうか。

 僧侶殿は、まだ笑いを堪えているようだ。


 仲間とは、良いものだ。

鈍感系、直情型、脳筋戦士、何か普通に主人公だなあ、こいつ。

ちなみに今回、キャラ掘り下げの為に文章の書き方が変わっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ