僧侶、楽をする
ピキキキキーーーーー!私悪い僧侶じゃないよ!いじめないで!
時は未だ過去である。
戦士が勇者の一団へと加わり、しばし時は流れた。
今日も今日とて、彼らはモンスターと戦う日々を送っていた。
「ふん!」
戦士の一刀両断で、中位の単色スライムが粉微塵となる。
「相変わらず凄い威力だな……はぁっ!」
勇者の剣が蜂型モンスターを捕らえると。
「ファイヤーボール!」
魔法使いの呪文が追い打ちを掛ける。
「ふぁあ……」
僧侶は欠伸をしている。
「いやいや、勇者殿もなかなか、それでいて呪文も使えるのですからな、しかも回復攻撃何でもござれとは」
戦士は話しながらも蜂型モンスターを一撃で叩き落とす。
勇者にとっては嫌味にしか聞こえなかったが、悪気がないのも分かっていた、こういう男なのだと。
「っていうかさ、僧侶あんた仕事しなさいよね!」
今日は魔法使いがご立腹である。
「あらしてますよお?ラウンドヒール~これでよし!」
僧侶は範囲回復魔法を使った!仲間達の体力が回復していく!
「いやまあそれは良いんだけど!戦闘中あんた欠伸してたでしょ!見てたんだからね!」
魔法使いは見た!「あらやだ、欠伸してる……」
「えーでもヒール飛ばしてましたよお」
実際回復すべき所ではしっかりと仕事はしていたと言える。
「昔のストレスが嘘みたいですよ。最近体調も良いし、肌艶も良くて。あ、ほら髪もさらさらなんですよお?」
僧侶は嬉しそうに髪を撫でている!
「あら本当ね……ってそういう事じゃないでしょ!」
僧侶へ魔法使いのツッコミ!ミス!
「っていうか最近あんたは弛んでるっていうか……」
魔法使いの愚痴タイムの始まりである、こうなってはしばらく止まらないのは、一団では周知であった。
「いや、やはり女性がいると華がありますなあ、賑やかで旅も楽しい」
戦士は娘でも見るかの様に二人を眺めた。
「いやまあ実際助かってますよ、煩わしいと感じる事もあるけれど、それも贅沢な悩みなんだと思います。命がいつまであるか分からない仕事ですからね」
勇者とてそれなりに場数を踏んでいる、楽しい事ばかりでは無かったのだ。
「わしが、そう、女戦士とかなら良かったんですがな、ハーレムとかいうやつになったのでは?」
戦士は今更ながらにその事実に思い至った。
「どうでもいいですよそんなの、恋人探しの旅をしている訳じゃありませんからね。もしも、もしもですよ?一団の中からそういう人ができたら良いな、とは思いますが、同時に心配にもなりますし」
勇者も考えた事はあった。しかしどうしてもそういう風に考えられない。
その人は戦いから遠くにいて欲しいと願ってしまう故に、一団はその候補から外れていた。
「真面目なんですな、勇者殿は」
戦士は思った事を考え無しにそのまま口にした。
「そんなんじゃないですよ、本当、そんなんじゃ……」
勇者は、この時ばかりは戦士の馬鹿さ加減に救われた思いだった。
「そうですね、確かに最近戦闘中暇かもですねえ」
常にストレスを感じていた以前よりも、戦士が加入した事により、僧侶は大分楽になっていた。
戦士加入に大賛成していたのも頷ける話である。
しかしそれも退屈してきていた。
「暇ってあんたねえ、まあ確かに、強敵相手だとあたしなんかより格段にあんたはキツイだろうけどさ」
魔法使いも伊達に近くで戦闘している訳ではない、僧侶の心労も理解しているつもりである。
「キツイ……タイミングが無いですねそう言えば最近、戦士さんが来てから楽ですね」
明らかに分かっている事だが、初めて口にした。
「そりゃそうよ、武闘家は壁出来ないからね。完全に近接出来ないあたしとあんたがいるのに壁役がいないってのがおかしかったのよ」
まああたしのおかげで何とかなってたけどね、と心の中で続ける魔法使いだった。
「そう考えると今の四人ってすごくバランス良いですよね、これ、もしかして拠点変えても良いんじゃないですかね?」
僧侶は提案した。
「そうね……どう?勇者さん」
魔法使いはさも当然の様に聞いた。
「え?何、何の話?」
そして当然聞いていなかった勇者である。
「んもう!拠点を変えるかって話よ!戦士さんのおかげで戦力アップしたし、職バランスは最上と言っていいわ!この機会を逃す手は無いと思うの!」
魔法使いは俄然やる気である。元々やる気はある人である。
「でも、今日明日ってのは急ですよね、とりあえず今の拠点でやり残した事を片付けて、挨拶周りもして……」
僧侶が脳内でスケジュールを決めていく。
「じゃあ日程やもろもろは二人に任せるよ」
勇者は丸投げした!
「仕方ないわね!」
魔法使いはあくまで強気だ。
「勇者さんに任せるととんでもない事になりますからね」
僧侶は色々達観していた。
「戦士さんも、それでいいですか?」
勇者は一応確認した。
「ん?ああ、良いのではないか?わしには詳しい事は分からん」
戦士はやっぱり馬鹿だった!
最近仲間達も完全に扱いに慣れてきていた。
この人に考えを聞いてはいけない、しかし確認はとる、それが仲間というものだと。
「そうそう、私の考えでは無く、知り合いの話なんですがな」
と、戦士が提案する。
「新しい事に挑戦する時は、目標や、それを達成した時の自分への褒美を用意しておくと良いそうですぞ」
良かれと思い提案したが、予想以上の反応が返ってきた。
「そうだな、モンスターを沢山倒せたら、新しい町で武器でも買うか」
と、勇者。
「あたしも新しい杖欲しい!あ~でも目標か、新呪文でも習得頑張ろうかしら」
と、魔法使い。
「二人共到着できる前提なんですね、私は謙虚に新拠点到達を目標にしましょう、目標が二人より緩いですから、褒美は美味しい食べ物とかにしておきましょうか」
と、僧侶。
「皆様乗り気ですな!」
戦士は嬉しくなった。
「じゃあわしは、新拠点に到達出来たあかつきには、魔法使いでも初めてみましょうかな」
その場にいる全員が我が耳を疑った。
「あの……戦士さん?本気なんですか?」
勇者が恐る恐る聞く、流石勇者である。
「本気も本気です!そもそも昔から憧れていましてなあ!恥ずかしながら……魔法を自在に操るその雄姿と言ったら……」
戦士の語りが始まった、と思った矢先。
「がっ」
戦士の後頭部に衝撃が走った、しかしそこは戦士、ダメージはほとんど無い。
「何者!」
戦士が振り返ると、錫杖を振りかぶった僧侶がいた。
この後、呆気に取られる戦士を横目に、勇者と魔法使いに止められる僧侶は、一種の混乱状態にあったと伝えられた。
もちろん、戦士以外には真実は明らかであった。
この事件以降、目標と報酬の話は有耶無耶となり、一団ではタブーとされた。
後に僧侶は語る。
「自分でも分からないんです、何故あんな行動に出たのか、いいえ、きっかけははっきりしているんですよ、私、どうかしていたんでしょうね。今だから言えますけど、あれはあれで最善の選択だったのではないかと思うんです。でもあの時思った事は今でもはっきりと思い出せるんですよ、不思議な事に……え?ああ、そうですね、なんだったかしら、確かこうですね、ダメだこいつ早く何とかしないと……こんな感じです、失礼な話ですよね、今はもう笑い話ですよ」
文字に起こしてみたら創造以上にキャラ立ってて自分でもびっくりですわ




