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 思いがけず真実を知ってしまったものの、やることは変わらない。ペトルスの行方をつかむ為の手がかりを探すことだ。

 聖女の列に並ぶか迷ったが、まずは門前に行き、騎士に声をかける。昨日は見あたらなかった騎士だ。同じく問う。


「ああ。傭兵稼業の兄ちゃんか。最近は見ないな。どうした」

 やった。

「一緒に暮らしてたんですが、三週間前から帰って来ないんです。それで、聖女様が何かご存じでないかと思って……」

 気の良さそうな騎士は頭をひねる。

「喧嘩でもしたのか?」

「いいえ。指名依頼に出かけたままで……あっ、指名依頼というのは……知ってますか」

「ああ。昔傭兵だったもんでな。そうか。じゃあ坊主は指名依頼の内容と、聖女様に話した内容が知りたいわけだな。指名依頼に関しては……そうだな。坊主。三週間……三十日前と言ったな?」

「はい」

「関係するかは分からないから流してくれ。ちょうどその頃、また教皇庁にギルド持ちの馬車が出入りしたって話が広がったことがあった。数年前から間をおいて来てるみたいなんだ。積み荷が何か分からないから噂になってんだが……無関係だと思うけどよ」

「いえ。ありがとうございます」

こういう噂は馬鹿にできない。関係ないとは思うが。


「この話には続きがあるらしいんだが、俺は知らねえ。おい! マッド!」


 列に並ぶ人に話しかけていた若い騎士がこちらを振り向いて列を迂回して来た。

 騎士という職にしてはひょろ長い、痩身の男だ。


「なんですか〜」

「数週間に一度、ギルドの馬車が出入りしてるって噂があったろう。その続きをこいつにしてやってくれ」


 それを聞いていくらかシャキッとした顔つきになったマッドという騎士は声を潜めて話し始めた。


「はい。続きがありましてね。必ず、街でそこそこ名の知れた美男が一人、消えるんです。それが数年前から。その前には若い騎士が数か月に一度、一人だけ消えていたそうなんです。配置換えとか言われてましたけど、とんと名前を聞かなくなるので怪しくて。友達がそうでした。それで調べていたらここに配置換えになった訳です」


 やっぱりなあ、と騎士のマッドは言う。


「宿舎が綺麗さっぱり、まるで最初から誰もいなかったように、本人ではなく別人の手で掃除されていたので訊いてみたんです。そしたら、心臓の病で急死したっていうじゃないですか。納得しようと思ったけど、どう考えても腑に落ちなくて。お墓の場所も教えてもらえなくて」

「それは、不可解ですね」

「そうでしょう。でもでもあんまり言うと恐らく虚言の流布で処罰対象になりますから、ここだけの話ですよ」


 得た情報を元に考えてみる。まず、騎士が消えたのは事実だろう。そして、恐らくは殺された。クローマ教は土葬だ。万が一掘り返されては困るようなものがそこにある?

 その後は騎士ではなく街の男が消えるようになった。こちらは殺されたと見るのは早計か。

 続いて教皇庁に出入りする、積み荷の分からないギルドの馬車。これは関係しているかどうか分からない。

 無理やりに結びつけてしまえば、消えた男達は馬車に乗って教皇庁を出入りした前後に殺されるか遠くに飛ばされた……と読めるが、それは浅はかな考えだろう。

 墓を掘り返そうにも場所が分からないし、そもそも墓があるかも分からない。どうにかして火葬した可能性もあるのだ。それに、墓が見つかったとして自分に忍び込む技があるとも思えない。

 ペトルスがどこかでふらふらしている可能性だってまだあるにはあるのだ。パン屋のグラムさんにはないとは言ったが、いくらかの自由はあるものの連絡が制限された状態にないとは言い切れない。教皇庁の出来事に関係していると考えるのは早計すぎる。


「聖女様にはどこで会えますか。それと、懺悔の間の順番を教えていただけますか」


 聖女は懺悔の間で、昼休憩をはさみ朝八時から夜六時までほぼ一日の間、訪れた人の懺悔を聞き言葉を授ける。聖女は毎日変わり、一週間は十日。聖女の番に規則性があるならば、ペトルスと対話した聖女がつかめるだろう。

 マッドを紹介した、人の良さそうな騎士は苦笑して言った。


「普通の人間には懺悔の間しかねえよ。それにな、日によって列に差をつけない為に……公平を期す為にだな、決まりってもんがないし、公開されてもないんだ」

 騎士は思い出したように問うた。

「ちなみに、坊主はクローマ教徒だよな?」

 間をおかず肯定した。何なら教典を暗唱しましょうかと言うと、悪かったな、と言うのに対し、全く、仕事中に長々と申し訳ない旨を伝えると、なぜか騎士にならないかと勧誘されたので断った。



 手洗いから戻ると、午前中話した騎士二人の姿は昼休憩中かなかった。列に場所を取っていなかったので渋々後につき、他に並ぶ人達と同じように立ちながら食べる。朝家で作ってきた干し肉と葉物野菜のサンドイッチだ。

 おれの後ろにも人が並び始めた。夏の半ば、この国では這月(はいづき)の三十二日目。空は日が高いが、この国の風土もあってカラッとしており不快な暑さではない。


 結局見とがめられることもなく、聖女の元に辿り着いたのは日も傾く前の随分後のことだった。


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