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※うっすら男色表現があります

 この数週間マッドから連絡がない。

 そのことに苛立ちを覚えマッドに連絡役を送ったところ、数日前に死んだという。自分で喉を突いた状態で発見された。

 最後の連絡は数週間前、狼族の少年の居場所についてだった。

 その時、心なしか顔に生気がなかったように思う。

 そして突入した結果、もういないと分かったのだ。

 もしかしたら逃げ出す手筈を整えたのかも知れなかったが、死人には訊けない。

 ともかく、これで見目よい男を選び出す眼を、世情を聞く耳を失った。

 教皇直属の機関を作りたいが思うようにならない。

 市井のことをよくまとめよとマッドの後継に若い騎士フリッツを送り出したが、ままならない。

 狼族の少年と、アメリアと名乗る恐らく聖女エレインは、オルコットの騎士に罪人として連れられていったという。

 オルコットめ……どういうつもりかと手紙を送ったが一向に返事が来ない。

 次の枢機卿会議の時は覚えていろ。私の暗殺未遂、聖女誘拐犯を横からさらうような真似をして。そう吐き出し、起き上がろうとして――身体がこれまでにない程軋み、関節が固いことに気がつく。

 ようよう起き上がり、息をつき立ち上がる。腰も痛みを訴えている。これはどうしたことだろう。少し歩いただけで息があがる。

 その夜、フリッツを呼び報告させた。聞き集めた噂の中に、気になるものがあった。


「オルコット領都で私と同じ力を持つ者が現れた……」


 すぐさま手紙を書く。まずは真偽を確かめよ、真実なら都に寄越せと命令を綴る。

 私はまだ若い。これには従うだろう。

 鈴を鳴らし伝令を呼び託す。

 あとは待つだけだ。返事がないようなら――白黒ハッキリさせてやる。



「父上、聖下からの手紙は読まないのですか」

「読む。貸しなさい」


 封を開け文面を確かめるうちに父上の表情が緩んでいった。


「読みなさい」


 宙を舞う手紙を慌てて掴み取り、読んでいく。

 これは。


「最近、聖下と同じ力を持つ少女の噂がこの都で広がっているのは知っているな」

「はい。私も耳にしました」

「あれはな。ネイから聞いたが……アメリアという少女のことのようだ」


 噂はじきに耳に入り、血眼になって捜し、やがて当てることを読んでの話だったのだろう。


「アメリアさんが……」


 自分の眼を恐れずに見返してきた少女。

 ただ噂を、真実を知らないだけかも知れないが。

 高鳴る鼓動に呼吸が速まった。


「私としては、やるつもりはない」

「もしかしたら騎士を寄越すかも知れませんよ」

「騎士には騎士だ。大切な領民を差し出す真似はしたくないと言い張る。そうしたら噂が勝手に広がるだろう。新しい教皇の台頭を恐れての強行だと」


 父上はさもおかしそうに笑う。


「そろそろ変え時かも知れんな」



「師匠」


 おれにあてがわれた部屋の前で待つ師匠に声をかけた。

 監視の騎士はぴくりともしない。

 師匠は手を挙げると、部屋の中を指差した。

 共に部屋に入り、獣蝋に火をつける。

 ソファに腰掛けると、師匠が話を切り出した。


「アメリアさんの力のことをオルコット卿に話した」

「なんで……噂か」

「そうだ。オルコット卿は野に騎士を放っている。遠くない内にアメリアさんだと分かると思って話した。それで昨日聞いたんだが、教皇が召喚命令を出しているらしい」

「それで……オルコットは」

「まだ決めていない様子だった。いや、差し出すつもりのように見えた。頼み込んだが、どうなるか分からん」


 ――お前はどうする。

 おれは立ち上がると、呼び止める師匠の声を無視して部屋を出た。

 部屋の前にいた騎士に場所を尋ね、オルコットの寝室へ向かった。

 ここも騎士が寝ずの番をしている。

 剣は持って来ていない。

 念入りに衣服を改められ、良しと言われたので扉を叩く。


「猊下。シアです。入ってもよろしいですか」


 少しの間をおいて、


「入りなさい」


 いらえがあった。

 気はみなぎっていた。

 一つ、息を吐き出して扉を開ける。

 室内には手元を照らす燭台以外光源がなかった。

 ソファに掛け本を読んでいたらしい枢機卿は、こちらを向き言った。


「来なさい」


 おれは数歩前で立ち止まると、その場にひざまずいた。


「お願いがあります」

「何かな」


 唇を湿らせ、唾を飲み下した。


「アメリアを守ってください。都への召喚を拒否してください」


 うつむいたおれには舌なめずりをする枢機卿の顔は見えなかった。


「叶えてあげてもいいが……何も無く動く程、できた男じゃないよ、私は」


 おれは意を決し――上着を脱いだ。

 素肌が外気に触れる。

 枢機卿はくつくつと笑った。


「残念だが今はそんな気分じゃないんだよ。だが覚悟は分かった。時が来たら」


 老人はゆっくりと立ち上がり、おれの顎に手をかけた。


「とっくりと味あわせてもらおうか」



 五人の騎士がオルコット邸に訪れたのはそれから十五日後のことだった。

 門前で引き渡しを求める声に、応える者はいない。

 連日同じ光景が繰り返された。


 それから三日後、教皇の崩御が伝えられた。


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