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 マッドさんの言った通りに、バーゼルさんに会う為大聖堂前へ出かけた。

 何故ギルドの馬車と断定できたのか? その答えを得るべく向かった。

 早朝、まだ列は短く……いた。あの気のよさそうな騎士だ。

 早速近付くと、こちらに気がついて向こうからも寄ってきた。


「おう。また来たか」

「お仕事中すみません。ギルドの馬車の噂の件なんですけど」

 バーゼルさんは頭を掻いた。

「なんで断定できたか、だろ? マッドから聞いた。あれはなあ、乗ってるのがギルド職員の長い奴だからだそうだ。これも噂だがな」

「それでいいんですか? 教皇庁ですよ?」

 頭を掻きながら苦笑する。

「噂だが俺も、不用心だとは思うがギルドの書類だって偽造される恐れがあるんだ。どっちもどっちだと思うぞ」

「積み荷もあらためないんですね」

「そうだと思う。商人の馬車なんかもたまにしか……三週間に一度くらいしか検品してないらしい」

「危ないですね」


 これは良いことを聞いた。馬車に潜り込んで中に入れば――どうする? どうやってペトルスを捜すんだ? 第一、上手く行っても出る方法がないじゃないか。

 そこで、騎士は難しい顔をして言った。


「傭兵の兄ちゃんを捜してるんだったな。教皇庁との関連を疑ってもいる」

「はい」

 これまでに話したのは軽はずみ過ぎただろうか。人が良さそうだからと見た目で判断していなかったか。一瞬、緊張がよぎる。

 騎士はため息を吐いた。


「俺も、教皇庁には思うところがあってな。聖下以外に絶対に見つからないという自信があるなら、マッドに訊いて内部の構造を教えてもいい」

「聖下……?」

 バーゼルさんはハッとした様子で動揺を見せ、観念したように頷いた。

「そうだ。聖下の元に行くといい。そこで何かが分かるだろう」


 そこで思い出したことがあった。

――聖下の元へ行き、そのまま帰ってきませんでした――。

 聖女エレインの言葉。


「何かってのは教えてくれないんですか」

 この人は、それを知っている。

「確証も無いし俺の口からは言えない。ご本人から聞くべきだろう。ただ、一つ言っておく」

 そう言い、バーゼルさんはおれの手首を掴んだ。

 そして更に囁くように、しかし力強く言った。

「聖下には体を触れさせるな。絶対にだ」

「……それは何故ですか」

「――命を食われるからだ」



 マッドさんは午後から来るとのことで、一度街に下りた。

 行く先はギルド、依頼探しだ。なるべく遠くに行かなくて済む依頼を探しているが、採集依頼は初心者専用のようなものだし、それ以外だと危険度は跳ね上がる。公然と暗殺依頼を出して、誰が受けるんだろう。 依頼はギルドで審査されるが、受託者の生死は当然ながら保障されない。

 ここはいつ来ても混んでいる。玄関を過ぎ、曖昧な列に並ぶ。

 やがて順番が来て、張り紙と冊子にまとめられた依頼を閲覧していく。ここは近辺の街への商隊の護衛依頼を受けようかと迷って、やはり一人で受けるとなると余程の手練れでない限り難しいなと実感した。

 そして、離れている間一時に大金を得る師匠は何をしているのだろうかと改めて疑問に思った。

 そこで後ろの待ち人に背中を押されて群衆を抜ける。

 今日は止めておこう。午後から用事もあることだし。

 第一忍び込むとなると、この都を出る必要だって出てくる可能性が高いのだ。

 依頼を完遂しても報告する時間もないかも知れない。


 そう考え事をしている姿へ、ジッと視線を注ぐ存在には気がつかなかった。



「これが大体の見取り図です~」

 袖の下と下を通して受けとる。

 受け取っておいて何だが、さらっと機密を教えてくれたマッドさんとバーゼルさんに疑念が浮かぶ。罠にかけようとしているのではないか。

 だが自分は何も持たない一般人だ。大事な人も恐らく遠くにいる。

 しかし何等かの思惑があるとは考えておいた方がいいだろう。


「覚えたら燃やしてくださいね~」

「ありがとうございます」

 マッドさんはひとつ指を立てた。

「それと、注意です。刃物は持っていかないように~。丸腰で行くんですよ。捕まった時言い逃れできませんからね」

「わかりました。ありがとうございます」

 気になっていたことがある。

「顔が真っ青ですよ。大丈夫ですか」

 マッドさんはいささかやつれているようにも見えた。

「危険をおかそうとしている君に心配される程ではないですよ~」


 笑い、軽い口調で話してはいるが、槍が支えになっているような気がした。

 そこへバーゼルさんがやってきて、長身痩躯の腕を引いた。


「休みの許可、下りたぞ。休め」


 自分の為に出て来てくれたのではないだろうか。思い至ってもう一度礼を言い、頭を下げる。


「やだなあ。そんなにかしこまらないでくださいよ~。先輩、俺は大丈夫ですから~」


 マッドさんはひらひらと手を振りつつしばし抵抗していたが、再三の説得に折れ、奥に大聖堂が控える門へと引っ張られていった。

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