・コレも義務⊶前⊶
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「こんなの、聞いてない。」
目の間にあるモノに、眉をしかめるのは、これでかれこれもう何度目だろう。
いいかげん、溜息を吐くのも面倒になってきた。
今私は新居にと、あの人のお兄さんからプレゼントされた部屋に一人で来ている。
用件は引っ越しの段取りである。
明日からここに住むようにと言われている私からしてみれば、もっと事前から何かと用意したかったのだが、それは必要ないと素気無く却下されたのだ。
で、その結果がこれ。
目にも毒々しいピンクとリボンとフリルに支配された、別名愛の部屋と題された寝室。
ふざけているのだろうか。誰がこんな部屋で寝たいと言うのだろうか。私なら絶対ごめん被る。何がなんでもこんな部屋で寝ない。これなら寝ないでゲームしていた方が幾分かマシだ。
「ここは見なかった事にしよう。うんそうだ、そうしよう。」
パタンと寝室の扉を閉め、リビングのすぐ横にある和室に荷物を運ぶ。
ここに小さな箪笥と鏡台でも置けば、ことは足りるだろう。どうせ仕事は止めたのだから、丁寧に化粧をする必要性もなくなった。
そう判断し、畳み独特の匂いを胸一杯に吸い込み、押し入れを開け、湿気を取れば、キッチンの方が気になりだした。
一応主婦となる身である自分としては、キッチン用品の有無は非常に気なる。
ひょいっと、和室から顔を出し、リビングキッチンを見れば、冷蔵庫はあったが、フライパンなどは見当たらなかった。調味料はと、キッチンへと向かい掛けた時、鳴る筈のないインターフォンが鳴った。
それはまだ、私があの人を好きになる前の事で、私が初めて対決する事となる女性の来訪を告げるものだった。