表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/34

・本番はこれから

更新

 剥がれた口紅に、乱れた髪。


 もし、これが何も知らない、しかも婚約者側の関係者が見ればどう思うだろうか。

 答えは一つしかない。

 そう、たった一つしかないのだ。


「聖、おっと、取り込み中だったか?」


「いえ?済んだので、もう結構ですよ?そうですよね、緋弓さん?」


 おぉい、ナニ勝手な事を言ってるんだって!!

 それに緋弓さんって何なんだ。

 アンタそんな紳士キャラじゃないだろ。


 私の非難がましいその視線を、見せつけるようにして私の頭を自分の胸元に押しつけ(これは苦しい)、突然現れた誰かさんに、如何にもウソ臭い笑みを向けた。


 お陰で鳥肌が総立ち。


「それで?兄さん、何の用です?」


「いや、俺の義妹になる子の顔を見に来たんだが・・・。」


「勿体無くて、見せられませんね(見せる価値もない)」


 空々しい会話に、またしても背中がゾクリとする。

 それに、コイツの言葉には全て裏がある。

 どうして、こんなにもコイツは全てが似非臭くて疑わしいのだろう。


 力強い拘束から何とか逃れ、溜息を吐けば。


「疲れたんですか?緋弓さん?あぁ、顔色が悪い。無理をさせてしまったようですね?」


 何故だろう。なんか激しく小馬鹿にされてるような気がする。それにここで頷けば、更に激しく誤解されるかも知れない。なら、取る行動は一つ。


 腕に力を込め、距離を取り、ナントカ清楚に微笑んでみる。


「だ、大丈夫です。すみません、私は少し休めば大丈夫なので。ひ、聖さんは・・・。」


「遠慮する事は無いんですよ?緋弓さん」


 瞳が笑ってませんよ・・・?社長さん?


 うふふふ、あははは、と笑いあい、牽制しあう私とこの人。

 それを端から見れば、何とも羨ましい(私にしてみれば嫌で堪らない。)光景で、微笑ましい関係に見える。


 お兄さんもお兄さんで、にこにことしているだけで、助けようとしない。

 そればかりか、とんでもない事を打ちかましてくれた。


「その様子なら、直に元気な子供も見れそうだな。な、絅子けいこ。」


「――えぇ、そうですわね。」


 ま、まだ人がいたの?

 しかもなんだかこの人、私の事睨んでない?

 もしかして、いやいや。そんな事がある筈がない。


 私が悶々と一人で考えていると、グイッと、突然顎を掬い取られ、ふにやり、と、何か柔らかいモノが触れ、生温かい何かが入り込んできた。


 それに驚き、もがけばもがくほど、それは激しく、淫らに、深くなっていく。


 つぅーっと、唇の端から洩れた唾液が恥ずかしい。

 耳に突き刺さる甘く媚びた声も忌々しく、恥ずかしい。


 しつこく舌を絡められ、酸素を求めようとすれば。


「ん・・・、やぁー、んっふぁ・・・、」


 それを狙っていたと言わんばかりに、深められ、遂には力が抜け、自分の脚で立てなくなった私は、悔しい事にアイツの胸元に縋りつくしかなくなった。


 それを見て満足したのか、奴は私を解放した。


「そんなに焼きもちを妬かなくても、私は緋弓さんしか見てませんよ?だからそんな目で私を見ないで下さい。」


 そんな目って何だ、と、言い返せない自分が悔しい。

 だから、せめてもの仕返しに、私は奴の胸元を拳で叩き、あとは任せた。


 どうせ、私はもう動けないのだ。

 好き勝手やったらいい。


 白旗を上げて試合を放棄した私は、この後、奴にいわゆる『お姫様抱っこ』をされ、大人しくもか弱い、従順な婚約者として、奴の関係者に紹介され、益々着物をくれた人に、私は気に入られてしまったのだった。



 お酒は飲まない!!って、この時私は決めた筈なのに、私は懲りずにまた同じ失敗を繰り返してしまうのだけれど、それはまだ先の話。


緋弓の不戦敗。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ