・元カレと婚約者
酔っ払いに理性はありません。
やっぱり生きてたじゃん。
死んだなんて嘘だったじゃん。
誰よ、死んだなんて嘘言いやがった奴らは。
懐かしくも愛しい恋人に、実に5年ぶりに抱きつけば、彼は私を然も鬱陶しげに突き放した。
ムッ、酒臭いからって、それは無いでしょぉ~?
「何よ、奏詩、まだ怒ってるの?だってあんな処でプロポーズするから、冗談だと思って。」
花の週末・金曜日に、お酒の勢いで歓楽街にあるホテル、一言でいえばラブホ?に入って、避妊しないで致した後、朝になって酔いが覚めた所で、「結婚しよう」なんて、誰だって信じられないでしょ?
でも奏詩は本気だったみたいで、指輪も用意してくれていた。
その事実を知ったのは、奏詩が会社のプロジェクトで、現地の海外へ行った後だった。
「でも、嬉しかったのよ?本気で嫌だったワケじゃない。奏詩が帰ってきたら、素直になるつもりだったの。だから珍しく有給なんか取って、空港まで見送りに行って、私からキスしたじゃない。帰ってきたら許してくれるって言ったじゃない。」
忘れちゃったの?私は憶えてたのに。
何も反応してくれない彼に悲しくなり、涙があふれてくる。
現地で敵対する部族と間違われて殺されたと聞かされた時、彼の上司からそれを聞かされた時、軽い棺の中の・・・。
「ねぇ、生きてたんなら、どうしてもっと早くに逢いに来てくれなかったの?私より好きな人が出来たの?」
嫌よ。そんなの、絶対に嫌。
彼の首に腕を回し、思いの全てを伝えるように、私から最初から激しいキスをした。
同じ高校の二つ上だった奏詩。
玉砕覚悟で卒業式の日に、ボタンを下さいと奏詩に言った私。
まさかのOKに、突然のキスに、驚いて泣いてしまった私を優しく抱きしめてくれた奏詩。
初デートに緊張して眠れずに寝坊して、待ち合わせに大遅刻した私を本気で心配してくれた奏詩。
みんな、全部が全部、奏詩が初めてだった。
「お願いだから許してよ、奏詩ぃ~。」
涙が止まらない。
悔しくて、悲しくて、辛くて。
どんなに謝っても、彼は・・・。
「――俺が知っている奏詩が、お前の奏詩だと言うのなら・・・、」
漸く聞こえた声は、奏詩のモノより冷たいモノで、それに少し違和感を感じ、顔を上げた私に待ち受けたモノは。
「福海 奏詩は、死んだ。」
氷の女王も真っ青な冷酷な顔をした、先程まで美女と戯れていた俺様何様婚約者サマな、アイツだった。
あぁ、神様。
あなたに慈悲と言うのは無いのですか。
一気に酔いの醒めた私は、速攻でアイツから離れ、唇をゴシゴシと拭った。
守丘 緋弓、一生の不覚。
だけど、これは未だほんの序の口だったのだと、私はスグに理解することとなる。
暗くなり過ぎないように注意しました。




