・お披露目
サクサク行きます。
今の私、いったい総額幾らよ?
髪をその一本でまとめ上げている簪の柄は黒漆で、飾りは白牡丹と緋牡丹の二つ。
無理矢理着させられた着物は京都の友禅。
それに纏わるモノも全て一級品。というか、一点モノ。
「まぁまぁ、大変お似合いよ、緋弓さん。」
嬉しそうにそう微笑むのは、この着物やら簪の類の元持ち主でもあった婚約者サマのおばあ様。
ここで、ハイ、そうですか、と微笑めればあの人にとっては完璧なのだろうけど、生憎と私は私。
そう素直には頷けない。納得出来ない、受け入れられない。だから婉曲に脱ぎたいと訴える。
が。
「気に入って貰えなかったの?そうよね、新しい方が良かったわよね、私のお下がりなんて、嫌よね」
悲しげに瞳を涙で潤ませられ、悲しそうに呟かれては、私の少ない良心が疼く。
最後にポロリと涙なんかを流されてしまっては・・・。
「いえ、家宝にしたいくらい気に入ってます。ですがこれは・・・」
「なら、緋弓さんに差し上げるわ。元々そのつもりだったんですもの。ね、よろしいでしょ?」
それは誰に同意を求めているんだと思いながら、なんとかこれを脱げないかと思案していると、私の後ろから威厳に満ちた、低い声が聞こえてきた。
「君がそう決めたのなら、私は何も言う事は無い。」
その声は嫌と言うほど聞き覚えがあった。
今は現役を退いたとはいえ、嘗てはこの国の外交をその腕一本で支え、周辺諸国と互角に渡り合っていたやり手の政治家。
今でも時折テレビでご意見番として出演している時がある。
彼だからこそ言える、彼だからこそ信用性がある語り口や話の内容。
その政治手腕が惜しまれているからこそ、彼の出没する処は自然と人が溢れ、メディアも迷惑を考えもせずに群がって来る。
現に彼が現れた途端、私の周りには一気に人で壁が出来、身動きも簡単に出来なくなってしまった。
これではやけ酒に焼酎さえ飲みに行けない。
ちッ、これだから金持ちと政治家と芸能人は嫌いなんだよ。
苦々しく思いながらも、溜息を我慢しつつ人垣を分け、そのカオスの様な集団から脱出してみれば。
「最ッ悪!!」
美女と楽しげに談笑する、未来の夫君(仮)がいた。
自分だけ避難している事と、我関せずな態度に腹が立った私は、今日が一体何の日で、何が行われる日かを理解しつつも放棄し、不幸にも私の横を通り過ぎたホテルの従業員に言って、別部屋を用意してもらい、お酒を浴びるように飲もうと決めた。
後悔先に立たず。
この言葉の意味を、私は今日この日、知る事となる。
短いけど更新。




