・婚約成立
展開速くてスミマセン。
ここは何処?私はだぁれ?
みたいな如何にも鉄板な方向に話が進めばどれだけ楽だっただろう。
でも、生憎と私はそこまで夢見がちでも、悲観的主義者でもない。
起こってしまった事は仕方がないのだ。受け入れるしかない。
ならば。
「どうやら気がつかれた様ですね?守丘さん」
女は度胸と根性と愛想笑い!!が理念の私が、覚悟と度胸を胸に目を覚ました瞬間、あの策士な男の声が耳に入ってきた。
どんだけ目敏い奴なのだろう。
こんな奴に惚れられてしまっては、身の破滅である。
もし、彼女が助けを求めてきたら私だけは彼女を擁護し、助けてあげよう。
「――、どうやら心配するだけ無駄のようでしたね。そんなにスラスラ減らず口を利けるのなら、頭は無事のようですし」
尖ったその声に、自分が思った事を声に出し呟いていた事を知った。
「社長、守丘さんは先程の条件を満たせば結婚する気はあるようです。」
「そうか。なら話は早いな」
口の端をくいっと上げた男が、未だ少し現実逃避をしている私の顔を自分の方へと無理矢理向け、まるで値踏みするような眼差しで私を上から下までみやり、ふん、と、鼻で嗤った。
なんて躾のなってない失礼極まりのない男なのだ。
こんな人種の男がいるから世の中は腐れるんだ。
「65点だな。良くも悪くもない。――仕事は止めろ、無駄に喋るな。喚くな。馬鹿さ加減が丸出しになる。俺にとやかくしつこく干渉するな。金はくれてやる。」
そう言い放ち、如何にも面倒臭そうにスーツの裏ポケットから出してきたビロードの小箱には、私の誕生石がきらきらと台座で光り輝く、世間でいわゆる【婚約指輪】と称されるモノが入っていた。
一体、幾らくらいするんだろう?
ここまで大きいのは、流石に明智さんでも持っては無いんではないだろうか。
そのあまりの指輪の華美さに、私はまた思考を脱線させ、そこでそうだと思いだし、策士野郎を半ば睨みつつ、明智さんの所在を訪ねた。
なのにその策士野郎は、「あぁ、そうでしたね」と、実に飄々とした感じで、それでいて全く似非臭い笑みを浮かべ、断言してくれやがった。
「あなたが失神している間にお引き取り願いましたよ?彼女の様な社員がいるとは、そちらの会社も大した事が無いようですね?」
確かに彼女は会社の風紀は乱しているとは思うけど、明智さんだけを見て判断してもらっては困る。
「なんですか?卑怯にも社長を騙そうとしていた貴女に、会社の何が言えるんですか?」
貴女はただ黙って、社長の言葉に黙って頷いて、人形のように従っていればいいんです。と、言いきられ、頭が沸騰しかけた。
それでも言い返さなかったのは、この策士野郎の言った言葉に間違いがなかったから。
私は自己の思いを優先し、取引先の社長を騙そうとした。
私は自分の思いを優先したくせに、人の話を聞こうともしなかった。
私は、自分の勤めている会社の事を知らない・・・。
何も言えない。
何も言い返せない。
だけど、これだけは言わせてもらう!!
「夫婦別寝、用がない時以外は話しかけない。私に好きな人が出来た日にはスグに別れて!!じゃなきゃ、婚約も結婚もしないんだから!!」
私は人形なんかじゃない。
人形が欲しけりゃ他当たれ、と、強気に言い返した私に、ナントカ 聖とかいう男は、面白そうに笑い、
「契約成立だな」とのたまい、私の右薬指に、その華美な指輪を通した。
なんだかそれを見て、負けた様な、早まったような気がしたのは、どうか私の気のせいであって欲しい。
真剣に・・・。
負けてるよ、負けちゃってるよ、緋弓。