・疑惑の種
pipipi・・・
無機質な電子音が、夜が明け朝を迎えた事を告げる。
締め切ったカーテンの隙間からは、眩しいほどの太陽の光が差し込み、嫌でも私の意識を覚醒させる。とは言っても、私は眠れなかったのだけれど。
理由なんてあってないようなもの。
覚束ない足取りで締め切っていたカーテンを開ければ、外は私の気分とは正反対な雲一つもない青空で、正直腹立たしく思った。それでも身体は条件反射の様に朝食を作り、少ない洗濯物を洗濯機で回し、手早く干し、掃除機を掛ける。
誰もいない、私しかいない新築マンションの一室。
普段なら、もう少しすれば同居人が起きてくるのに今朝はいない。ううん、昨日からいない。
寂しい筈がないのに、何処か違和感を感じてしまうのは、聖の存在に慣れてきているからなのか、それとも本当に寂しいのからなのか判らない。
こんなの私らしくないと、彼は笑うだろうか。
それとも蔑むだろうか。
一番怖いのは無関心だと言う事を私は知っている。
一時期、私のお父さんとお母さんは離婚の危機にまで陥った事がある。
原因はお母さんが流産した事をお父さんに黙っていたから。
その頃は未だ流産という意味を正しく理解していなかった私は、それでも両親の関係が悪化したのを肌で感じ取り、なんとかしようと足掻いたけれど、関係は悪化の道を辿り、遂には家庭内別居にまで発展していた。
今でこそ関係は修復しているけれど、それは奇跡に近いのだと奏詩は言っていた。
(奏詩・・・、私は結婚しても良いのかな。結婚しても後悔しないのかな・・・。)
判らない、
解らない、
分からない、
ワカラナイッ!!
両手をそれぞれの耳に当て、黒くドロドロとした心の闇に囚われかけた直前、固定電話の呼び出し音が鳴った。
それは私が電話に出るまでしつこく鳴り響き、どうにもならない複雑で苦しい気分のまま電話に出れば、相手は知らない人だった。
そしてその人は私の心に疑惑という種を蒔き、芽吹かせる言葉を私に吹きこんだ。
『社長と、――聖さんと別れて下さい。聖さんの子供が出来たんです。聖さんは私と結婚して下さるそうです。アナタさえ身を引いてさえくれれば。』
ねえ、奏詩。
私は本当にどうしたらいいの?
どうしたら私は幸せになれるの?
この日から私は少しづつ、心に闇を抱えて行く事となる。
そしてそれは私に少なからず悪影響を及ぼしていく。




