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・二人の兄嫁

 いつの時代になっても、煩わしい小姑はいるもの。

 勿論、例外に漏れる事無く、聖の家にも五月蠅くて陰険で意地悪な小姑はいた。――しかも二人も。


 聖の一番上のお兄さんは政治家で代議士で、二番目のお兄さんは弁護士さんという生粋の法曹家で、息子が息子なら、親は親で、父親は国の大臣を務めた事のある人で、母親は母親で教育委員会のお偉いさん。


 そんな家族に囲まれながらも、聖だけは民間企業の社長に納まっている。しかもその会社は叔父夫妻から継いだらしく、聖は実家よりその叔父夫妻と交流する方が多い。とはいえ、そこは本家筋の三男坊。義務として月に二・三回は本家に顔を出すなりを心掛けていた。


 でも、その義務も聖は面倒に思っているらしく、最近では本家に行く日に限って急な仕事が入って来ない事を本気で腹立たしく思っているというのは、本家では絶対に禁句。


 と、こんな事を埒もなく心の中で語ってみたのは偏にちくちく言われる小言を聞き流す為。

 何が楽しゅうて兄嫁の小言に付き合い、心をすり減らす必要があるのよ。そんな事に時間を使うくらいなら、これからの将来の事を考えた方が建設的だわ。


 時間は無限じゃないのよ?

 一日24時間しかないのよ?


 しかもその内の5時間から6時間は睡眠時間でとられるし、たとえどんなに手軽な料理でも一食あたり30分かかって、それが一日三回。

 それにそれに、買い物とか洗濯とか、アイロン掛けとか習い事。そこに私は今結婚準備期間中だから、寝ても覚めても忙しいんだから!!


 だからね?私が気に喰わないだけで、個人的に本家に呼び出すのは辞めて欲しいの。真剣に、本気で。


「ちょっと、貴女聞いてらっしゃるの?緋弓さん。貴女は涼雅家の嫁になるのよ?」


「・・・(今晩の夕飯は何にしようかなぁ~?牛丼にしようかなぁ~)」


「これだから卑しい家出身の人間は・・・」


 って、ちょっと!!


 人が黙って聞いてりゃあ、言いたい事言いやがって。

 こちだってね、好きで結婚するんじゃないのよ(今は前ほどそんなに嫌じゃないけど)。

 そっちがその気なら、私だって毒吐くわよ?


 眉を顰めて私を見ていた陰険な義姉二人が一息つくのを見計らい、私は一転、反撃に講じた。

 ただし、令嬢面を被って。


「あら、私の聞き間違いでしょうか?ヒトを卑しいと仰るような低能でお馬鹿な方、ここにはいない筈なんですけど・・・」


 まずは牽制から。


「ヒトを区別したがる人は心が卑しい方々だけですからね。お義姉様方は違いますわよね?だって、未来の涼雅家を背負って立つ人を支える女性ですもの。」


 ここぞとばかり痛い処を抉れば、この手のタイプ(陰険なタイプ)確実に黙る。

 けれど、やっぱり相手は上手だったのね・・・。


 人の心を傷付ける言葉が何なのかを彼女達は理解していた。



「知ってる?聖さんの初めての相手、私なの。そして私の初めての相手も聖さんなのよ・・・。」


 そう言って、愉悦と勝者の笑みを浮かべたのは、兄嫁の絅子さんだった。

 その横で私を嗤っていたのは、聖の次兄のまことさんの奥さん・倫子りんこさんで。


 

 ねぇ、打ちのめされるってこんな気分の事を言うのかな?

 おかしいよね、まだ好きでもないのに、愛してもないのにさ・・・。

 だから、泣くなんて無意味だよね・・・?



 その日の夜、聖さんは帰って来なかった。


 

 

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