・嫁の務め
皆さん、こんにちは。またはこんばんわ。
守丘 緋弓デス。
突然ですが、私は今、窮地に立たされてオリマス。
私と婚約者であるアイツ、――聖とお見合いしたのが2008年の3月15日。そしてその日の内に当事者である私達の間で婚約は成立し、そのお披露目を皆様に(大多数が涼雅氏側の知り合いや、親族)したのが、その日から僅か十日後の、25日の火曜日の事。
その一週間後に聖のお兄様にプレゼントされた部屋に暮らし始めて、まぁ、それなりにというか、それなりな暮らしは送ってはいましたヨ?
でもですね、所詮はそれなりなワケで、実は私達、健全な年頃の男女としてはあり得ず、一線をまだ越えてはいないんですよ。いえね、寸止めは結構ありましたよ?でもですね、いざとなると、どうしてか邪魔が入るんですよね。だからもうここニ・三日はそんな雰囲気すら作ってませんでした。
えぇ、えぇ。ですから油断していたんですよ。
だから私が悪いんですよ。
完全に油断しきっていた私が悪いんですよ!!
「意外と体力ないんだな。」
私より年食ってるくせに、余裕も体力もある聖は、私が疲れ切っていると言うのに、一瞬たりとも離してくれるどころか、解放してくれる素振りさえ見せてくれない。
これが世間で言う、所謂【絶倫】ってヤツなんですかね?
ここで一応弁明しておきますけど、私は年齢並みの体力はあるんです。でもね、体力以上に求められちゃあね、疲れちゃうんですよ!!倒れちゃうんですよ!!
そこんところ、よぉ~く理解して欲しいってもんですね。
「・・・、ぅ、もぅ、ゅるしてっ」
もう眠たいのに。
もう明るいのに。
もう疲れたのに。
頼むから解放してよ!!
私のこの必死の願いが、いるかいないか定かではない神様に通じたのか、それとも相手が単に私の身体に飽きたのか、朝日が寝室のカーテンの隙間から差し込んでくる頃、私はやっと解放され、眠りにつく事を許された。
恐るべし、男の体力。
恐るべし、欲求不満。
そんな境地で、泥の底に沈み込む様に睡眠を貪っていた私が起きたのは、もう少しでお昼になるという頃だった。
で、いざ起きようとした私を襲ったのが、久々に感じる体中に走る独特な鈍い痛み。
もう筋肉痛では済まされない位の痛み。
こんな私に誰がした。
そうか、私が悪いのか。
「げ、サイアク。」
やっとの事で寝返りを打ち、うつ伏せになった私に待ち受けていたのは、婚約者の体液が流れ出てくると言う、何とも卑猥な感覚。
避妊をしていないのは何となく判ってはいたけど。知ってはいたけれど。
それでもこれは無いだろう。
腹這になり、なんとなく生理周期を計算してみれば、ドンピシャで危険日だった。
頭を抱えたくなるほど後悔しても、もう時は既に遅し。
それに結婚するのだし、このまま特に問題がなければ、いつかは子供を産まなきゃならないのだし。
「子供かぁー。」
どうせ産むのなら、生まれてきてくれるのなら、可愛くて素直な子が良い。
特別なモノなんて持ってなくても、健康であってくれるのならそれだけでいい。
――子作り。
それは嫁の務めであると同時に、愛する人と、自分が確かに愛し合ったという証にもなる。
まだはっきりと愛しているとは言えないし、好きだとも言えないけれど。
聖が愛してくれるのなら、私はそれを受け入れられると思う。
奏詩はきっとそれを許してくれるから。
この時の私は知る由もなかった。
この後に私を待ち受ける、数々の試練を
もし、事前に何らかを知っていたのなら、あそこまで落ち込む事は無かったと思う。
運命の歯車は私が知らない所で、音も立てずに廻り始めていた。




