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・結婚準備-4

「ほわ~。緋弓さん、お綺麗です。それにとってもお似合いですわ」


 白い頬を薄い薔薇色に染め、自分の事の様に褒めそやす加南子の存在に、俺は頭を痛めた。 

 なんでこうなったか等とはもう考えたくもないが、考えずにはいられない。

 友人は俺の事を苦労性で、考え過ぎだと言うが、コレを考えずにはいられるだろうか。いや、無理だろう。


「やっぱり緋弓さんには打ち掛けもドレスも両方着て頂きましょうよ。聖さん」


「・・・・・・、」


「もう、聖さん、聞いてらっしゃるの?」


 頬を軽く膨らませ、ぷりぷりと怒る嘗てのパートナーは、男など矢張り当てにはならないとばかりに、戸惑う緋弓を相手に、次から次へとドレスを着せかえている。


 ドレスと言ってもそれは披露宴の色直し用のもので、挙式用のモノは完全なオーダーメイドだ。そのドレスが出来上がって来るのは、どんなに早くとも10月の末になるだろうとのことで、どうせならクリスマスに式を挙げようと言う話になった。


 婚約者である緋弓は、真冬に挙式は嫌だとごねたが、本家の大老からの命令だと言えば、渋々その案を受け入れていた。


 どうやら婚約者である彼女の中では、老人の機嫌を取っておけば、余計な面倒事には巻き込まれないだろうと思っているらしく、余程の事がない限り、諾沢と意見を受け入れている節がある。


 自分の意見は無いのかと聞いてみれば、今更お前がそれを言うのかと、無言で非難された。


「あら、緋弓さん。そこ、どうなされたんですの?」


 VIP待遇で、衣装合わせの待ち時間にと出されたコーヒーを飲んでいた俺は、加南子のその言葉に噎せ返ってしまった。


 加南子が指しているのは緋弓の鎖骨で、そこにはバンソウコが貼ってあった。それに憶えがあった俺は、冷静さを取り戻す為、腕を組み、瞳を閉じた。


 言い訳をすれば、恥ずかしくなるのは間違いなく緋弓だろう。だが、責められるのは確実に自分だと判っている。だからこそ、何も言えないのだ。それは緋弓も同じ事だったらしく、当たり障りのない言葉で濁してはいたが、加南子のしつこい追及に観念したのか、ぺりっとソレを剥いで、見せた。


「まぁ、まぁ、そう言う事でしたのね。私ったら。」


「加南子さん、そんなに赤くならなくても・・・。加南子さんの方が大変でしょう・・・?その、瀧の相手・・・。アイツ、何気に絶倫だし・・・。」


「そうなんです。成平さんは・・・。」


 コソコソと、同じ男の事をアレコレ言い合う二人は、知り合ったばかりとは思えないほど仲が良く、最後はお互いの相手が、如何にどんなややこしい相手か等と言い合っていた。それは次第にヒートアップしていき、最後の最後には「私達ってかわいそう」と、慰め合っていた。


 なるほど。意気投合もここまでくれば、素晴らしいモノがある。


 意見が合うと言う事は、実はそんなにない。

 何処かで妥協し合ってこそ、他人は寄り添って生きて行く生き物だ。


 俺と加南子はそれが出来ずに別れたのかもしれない。

 もう少し、俺が加南子を判ってやれたら未来は違っていたのかもしれない。

 だが、既に俺と加南子の道は完全に分かたれ、その道が再び交わる事は永遠に無いだろう。


 瞼を押し開いた俺は、内ポケットから試し刷りの結婚招待状を取り出し、ソレを加南子に手渡した。


「聖、さん?」


 戸惑う加南子に苦笑しつつ、俺はそれでも招待状を渡した。


「俺とコイツ、いや、緋弓の結婚式に来てくれ。無理にとは言わない。だが、君には、加南子には俺と緋弓の共通の友人として結婚式に参列して欲しい。」


 コレが正解かどうかなんて事は判らないが、それでも俺は出て欲しかった。


 その思いが通じたのか、加南子は嬉しそうに微笑んだ。

 それは俺が初めて見た、加南子の本当の笑顔だった。

 

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