・合コンは命懸け
にこにこ、キラキラ。
うふふ、あはは。
ここは賑やかな雰囲気がムンムンな、とある居酒屋の座敷。そして、そこにいるのは、麗しの義兄様の廉さんと、その同僚を始め、かなり酔ったような友人達。
それは別に良い。だが一つだけ問題がある。それは、遅れてやってきた特別ゲストでもある、私の仮の婚約者サマ。
その婚約者サマが私の目の前に座って早30分。時折ツンドラの様な痛くて冷たい視線が突き刺さって来るのは、やはり私が弓子お姉ではなく、緋弓である事を見抜いているからだろうか。もしそうであるのならば、それは大変危険なコトで・・・。
いやいや、プライベートは干渉するなっ、て、言ってあるんだし。
別に後ろめたいことをしてる訳でもないんだし。
ここは勇気を出してっ!!
ぐっと、キンキンに冷えた液体が注がれているグラスを掴み、それを一気に飲み干してから、私は愛想良く微笑みかけた。
「私の顔が何か?」
「まさかお前が廉の嫁だったとはな。随分と化けたもんだな、――弓子。」
うっそーーー!!弓子お姉、この人と知り合いだったの?私、全然知らなかったんだけど?
この衝撃的事実を今すぐ知雪に聞いて欲しい。でも、私は今お姉な訳だし、と、アイツの手榴弾の様な突然の暴露に、私の頭の中は一瞬にしてパラダイスになった。
ひくり、ひくりと、途端に痙攣しだした口の端を隠す為、私は俯いた。
今ここで大笑いしてしまっては全てが水の泡となってしまう。そればかりか、廉さんにも迷惑を掛けてしまい、終いには私にもそのシワ寄せがまるで火の粉の様に振りかかって来る。
それだけは避けたい、いや、避けなければならない。だとしたら、ここは断固として弓子お姉のフリを完遂しなければならない。と言うワケで。
咲き誇る大輪の薔薇を窺わせるような妖艶な笑みを浮かべ(勿論、これも弓子お姉直伝。)、笑って有耶無耶にして誤魔化した。
ここで肯定や否定をしてしまえば、後々私が面倒になる。それを避ける為には、弓子お姉本人に、後でメールをしておいた方が良いだろう。
でも、その前に。
キッ、と、廉さんに先程からしつこく言い寄っている例の後輩ちゃんを睨みつけた私は、近くに置いてあったグラスを引っ掴み、その中のモノを遠慮など一切せずに、バシャッと豪快にぶちまけ。
「ちょっと、そこの小娘、アンタさっきから黙って見てれば人の旦那にチョッカイ出しやがって。その垂れ流しの女臭いフェロモンかなんか知らないけど、人の旦那に匂い擦りつけないでくれる?乳だけデカくて、廉の肩書と外見だけしか見てない能なしオンナに、廉の闇は背負えないわよ。判ったらさっさと失せな。このバカ女が。」
強烈な毒を吐いた。
でもこれは実は予め、弓子お姉に頼まれた伝言で、何処でも良いから、とりあえず人目のある所で言っておくように言われた言葉でもある。
廉には私から言っておくから、と言っていた筈なのに、廉さんの表情から察するに、コレはおそらく弓子お姉の独断なのだろう。
私は自分の仕事を果たしたのを良い事に、一気に気まずくなった空間から脱出する為、廉さんの腕を掴み、座敷を出ようとした。
が。
「弓子、お前、やっぱり変わったな・・・。俺が知っているお前はもういないんだな・・・。」
たったの一言。
アイツのそのたったの一言で、スタスタと進んでいた私の歩みはピタリと止まり、その時の眼差しで、私の心は何故か急にチクリと痛み出し、意味もなく、涙が零れた。
思えば、それが切っ掛けだったのかも知れない。
私が奴を、涼雅 聖 と言う一人の男を、たった一人の唯の男として意識し始めたのは。
それでもその時の私は、涙を流している所を見られたくなくて、私は廉さんを置いてまるでそこから逃げるかのように、居酒屋を出て行った。




