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・油断は危険

 ツツゥーっと突然首筋に何かを這わされた感覚に、私はうひゃあっ、と、思わず情けない叫び声を上げてしまった。


「なるほど?ここが弱いのか。」


 そう言いながら愉悦に満ちた笑い声を洩らしたのは、憎きヤツだった。


 奴は私のその反応が相当面白かったのか、幾度も首筋から鎖骨までを、その大きな手で撫でまわし、最後には首筋にカプリと噛みついた。


 これは一体どんなイヤがらせだ。

 アンタは私に手を出すほど、女に飢えちゃいないはずだけど?


 なのに、一体いつまでネチネチと私の首に噛みついてる訳?


「・・・なして、離してっ・・・。」


 それらの思いと意味を全て込めてなんとか抵抗すれば、ちゅっと濡れた音を立て、ようやく奴は私を解放した。


 途端、氷柱の様な鋭く冷たい視線と、ドロドロとした黒く醜い感情に支配され、嫉妬に満ちた眼差しが、私に一斉に向けられる。


 あぁ。そうですか。そう言う事でしたか。ハイハイ、アンタのやりたい事と企んだ事が、今、よぉーくワカリマシタヨ?


 ようするに私を利用してこの面倒臭い女共から解放されたかった訳だね?それならそうと早く言って欲しかったものだよ。


 深ーい、ふっかぁーい溜息を一つ吐いて、私は仕方なしに清純な婚約者を演じてやった。


「聖さん、こんな処では私、恥ずかしいですわ。(早いとこ退散したいんだけど?)」


「緋弓さんがそう仰るのなら(相変わらず頭の回転が速いな。)」


「嬉しい・・・(けっ、この女っ誑しが。)」


 お互い笑い合いながらも、それでも互いの腹の中や思惑を探り合いながら会話をする。こうでもしなければやってられない。ただでさえ好きで結婚するんじゃないのだから、これくらいは許されるわよね?


 とにかく歯が浮く程の清純な婚約者を演じ、エステ地獄と嫉妬の視線の嵐から解放された私は、久しぶりに知雪と逢い、朝までお互いの婚約者の悪口を言い合ったのだった。


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