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・エステは地獄

 この結婚(仮)、早まったかも知れない、と、思うのは、これで何度目だろう。


 流石に人様の結婚式をプロデュースする会社とだけあって、ブライダルエステ部門も凄い力の入れようで、もはや尊敬を通り越し、馬鹿らしさと面倒臭さしか感じられない。


「お待たせ致しました。守丘様、こちらへどうぞ。」


 その声に促され、渋々エステを受ける台に横になれば、途端にガウンを剥かれ、身体を隙なく磨かれる。婚約が決まってから早二ヶ月。一週間置きに痩身エステや美肌エステの類を受けさせられ、もう体はクタクタ、心もフラフラ。正直、もう付いていけない。


「守丘様、お美しくおなりになりましたね。」


「・・・、どうも。」


「何所か御気分でも?」


 放っておいてくれと言いたいが、何しろアイツの婚約者は大人しくか弱く、従順な可愛い婚約者。



 メンドクサイ。果てしなくメンドクサイ。そこでふと浮かんだ妙案に、私は激しく惹かれた。もしこの場で私が暴れたら奴の評判はどうなるだろうか。


 あぁ、なんて魅力的、否、素晴らしいのかしら。想像しただけで沈んだ心が浮き立つ。


「うふふふふ。あはははは。いいわ。そうよ。そう、だから早くこの婚約をっ」


 自分の想像とも、妄想とも言える世界に入れ込んでいた私は、その突然の声に、思考がストップした。


「―――随分、磨かれた様だな。」


「社長、どうされたんですか?」


 一気にその場が賑やかになる。なんでそうなの?なんで誰も違和感を抱かないの?


 私は今裸でエステを受けている最中。コイツは社長である前にオトコ。なのに何故、どうして私ではなく社長に全ての神経を向け、私を放置するの。それでもプロなのっ?と、次第に高まりつつあった私の神経は、一人の女性の心遣いによって、見事回避された。


「奥様、どうぞ。」


 サッと、私の前に差し出されたのは、真新しいタオル生地のガウン。


 それを有り難く受け取って身に付ければ、漸く人心地がついた。序に水を要求すれば、ガウンを用意してくれた女性は、笑顔ですぐに用意してくれた。


 ゴクゴクと喉を鳴らし、その水を飲み干せば、気分も先程より更に落ち着いた。


「ありがとう。助かったわ。」


「いえ、こちらこそスミマセン。こうなっては今日はもうエステは無理なので、お帰りになられますか?それに奥様には失礼ですが、もうエステはそれほど必要はないかと。」


「ほ、本当に!?」


 その言葉に、思わず涙が出そうになった。


 私は元々標準体重のラインを少しだけ上だっただけで、それほど太ってはなかった。なのにこのエステ三昧。そのせいでただでさえ邪魔な胸が、さらに邪魔になってしまった。


 これを言ってしまったら嫌味になってしまうかもしれないけど、私にとっては本当に真剣な悩み。


「豊胸手術があるんなら、貧乳になる手術もあるのかしら・・・。」


 世に言う脂肪吸引。あれがそうだろうか。と、再び自分の世界に浸っていた私は、アイツが近づいてくる事にも気付く事無く、頭を悩ませ、首を傾げていた。

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