・降ってきたお見合い話
記念小説です。
私、守丘 緋弓、当年29歳。
職業はインテリアを主に手掛ける会社の受付嬢歴10年目のベテランと言う名のお局。
彼氏・恋人いない歴は、今年の春で丸5年。
そんな私の家族は、口煩い姉に、育ち盛りの高校生の弟、そして最近特に結婚結婚と口煩い母に、私が勤めるここの会社の幹部の一人でもある父の5人家族。
その家族に囲まれ、我ながら騒がしくも充実した日々を送っていると思っていた日々。
でもそれがある一人の男性の出現によって、大きく揺らぐことになるだなんて、誰が考えただろうか。
「え?知雪、お見合いするの?」
「そうなの。相手は官僚でエリートなんだって」
「なんだって、て。」
社員食堂で大人気のAランチを突きながら、親友である彼女のカミングアウトにどう反応すればいいか悩む。
彼女と私は同期で、かけがえのない親友で、彼女は少し前に秘書課秘書室に移動となって、これからっていう時だった。なのに。
「仕方ないよ、緋弓。ウチは元々女は嫁いで家を守れって家だからさ。仕方ないんだよ」
寂しげに微笑む彼女は、何所か疲れ切っているように見えた。
それから察するに、状況はもう手遅れなんだと知った。
「それで、会社はいつ辞めるの・・・?」
「緋弓、」
お見合いするだけなら、彼女はこんなに暗くはならない。
お見合いして、結婚して、仕事を止める事が決まっているから、こんなにも暗く寂しそうにしているのだ。
両親に反抗してまでここに就職したと言う知雪。
入社してからずっと傍に、一緒にいた知雪。
喧嘩しても、例えどんなに苦境や逆境に立たされても、一緒にいた、いてくれた知雪。
「解るよ。だって、ずっとに一緒にいたじゃない。雨の日も、風の日も。」
「遅刻した日も、ね。」
から揚げに箸を突き刺し、わざと意地悪気に笑ってやる。
それしか出来ないから。彼女は、湿っぽいのが大っ嫌いで、超が付くほど苦手だから。
ふぅーっと、溜息とも、安堵の息とも取れぬ息を吐いて、箸に刺したから揚げを口に入れ、もぐもぐと口を動かす。知雪も食事を再開し、たぬきそばをズルズルと啜る。
「緋弓、アンタも気をつけなさいよ。私達はもう若くない。」
「大丈夫よ。私なんかにお見合い話なんか来ないよ。心配し過ぎ」
そう。確かそんな事を話していたのはつい最近だった。と言うか、今日のお昼だった。
なのに、こんなことってあるのだろうか。
ぽかりと間抜けにも開かれたままの口と目に、髪から滴り落ちる水。
今、この親父は何と言った!?
「う、だから、そのぉー、見合いをだな・・・」
「却下。」
「緋弓ぅ~」
50をとうに過ぎた親父が気色悪い、と言わないだけ、感謝して欲しいと思う。そう思いつつ、困り切った顔をした父を無視し、ソファーに座り、お気に入りのクッションを胸に抱く。
誰も彼も結婚結婚と煩いが、そんなに結婚しなければならないのか。
それでも何か?結婚は女の義務だとでもいうのか!?
もしそうだと言うのなら、今すぐそんな義務は撤回してしまえ!!
「逢うだけでも良いから、とりあえず逢ってくれ。事は社運が掛かってるんだ。」
「今時、政略?うわ、ダッサ。」
「相手はやりての若手の社長だぞ?」
それを聞いて、益々面倒でウソ臭い上に、嫌になって来る。
何も私じゃなくても、と思ってしまう。
そして不意に思い出す。自分がここの家の次女である事を。
にやりと、人相の悪い笑みを浮かべ。
「私じゃなくても、弓子お姉でも良いじゃん」
「フフフ、残念でした。私は来月結婚するんですぅ~。」
「な、そんな事、聞いてないよ!?」
「だって、アンタには今初めて言ったもの。」
お先、と笑う姉にがっくりと肩を落とし、私はクッションに顔を埋めるのだった。
続くのか?これ。