1 華麗なる犠牲者
弟君ことチーアが去った後、神殿にミズホとミナヅキが帰ってきた。
「うううう。生ゴミだらけ~~ 」「お姉ちゃんたちはいいよ。私たちはうんちまみれ」
「サウナ~! サウナ~~! 」「下級神官でもいつでもサウナに入れるっていいよね」
「貧乏神殿だけど、こういうところはしっかりしてるよね」「だから貧乏なんだね」
「ご奉仕お疲れ様」「ありがとうカレン。ご飯は?? 」「残しておきました」「よかった~! 」
「えーと。サウナにお湯を用意していますので、この石を濡らした布につけて、身体をこすりなさい」
「??? 」「???? 」
不思議そうな顔をする双子にカレンは告げる。
「身体が綺麗になるとチーアが。あ。服も綺麗に出来るそうですから、洗濯物もお願いします」
「ああ。奉仕もロクにしないあの子か」「お姉ちゃん。男だと神殿に近寄りにくいんじゃない? 」
「それもそーね」とミズホは言うと大量の洗濯物を受け取り、サウナに向かう。
ズタ袋のような作業用の貫頭衣を手早く脱ぎ、サウナに入る二人。
「くっさいから水かけてあげるよ」「お姉ちゃんも人のこと言えない」
「これも女神様の加護のため」「お姉ちゃん。カレンに叱られるよ? 」
「だってさ! カレンみたいに歳取らないっていいじゃん? 」
女神の使徒になった者は老化速度が半減するのは有名な事実である。
もっとも寿命が延びるわけではない。
「カレンみたいに行き遅れたらどうするの? 」それも良くある。
「うっわあああああああ!!! 」
突如騒ぎ出した妹に驚くミズホ。
「泡??? なにこれ!! 」驚くミズホに喜色満面で答えるミナヅキ。
「おねぇちゃん! これ! すっごく綺麗になる!! 」
身体だけではなく、洗濯物の汚れが見る見る落ちる。まるで神の奇跡だ。
「と、いうか、これ、きっもちいい~~!! 」「あたしにもあたしにも!! 」
「……ミズホ。ミナヅキ。何を騒いでいるの? 」「あ~レティ! 凄いよ!! 」
女性ばかりの神殿でありながら汚物の処理を収入源にする慈愛神殿では、
身体を洗う施設はかなり大掛かりなものだが、サウナは熱効率的にあまり大きくは出来ない。
外側ではお湯で身体を洗いながら入室を待つ神官たちが列を作っている。
「……なにこの変な石?? 」レティと呼ばれた少女は泡にまみれた石もどきを手に取る。
裸のままサウナから出てきた二人が、泡まみれのたらいを掴んで出てくる。
「あ。食べると毒」「早く言ってよ!! 」レティが叫ぶとペッペッと唾を飛ばす。
「すっごーい!! 」「えええ!! うっそ~~~!! 」「これすごすぎ!! 」
「私にも貸してよ!! 」「ダメダメ! 次は私!! 」「あ~ん! 滑った!痛ぁい!! 」
「ちょっと! 次は私だって」「いたっ! 何をするの! 」
石を奪い合う娘達。浴場内は騒然とする大騒ぎになった。
「……何をしているんですか?はしたない!」
騒ぎを聞きつけたカレンは素っ裸で大喧嘩をしている若い娘たちを叱りつける。
「ちょっと! よこしなさいよ!! 」「次は私!! 」……聞いていない。
「……『平和あれ』」「あっ」
女神の加護を使用したカレンは平静を取り戻した神官たちから『石』を取り上げる。
「まったく。こんなことでは女神様の使徒にはなれませんよ? 」「「「ごめんなさい」」」
とはいえ、若い娘というものは最初は衰えぬ美貌を求めてこの神殿の門を叩くので、
あまりきつくするつもりはカレンにはない(誰にも言わないがかつての自分もそうだったし)。
いそいそと服を着る若い娘達を尻目にため息をつくカレン。
娘達が去った後、誰も片付けをしていないのに気がつき、ため息をつく。
「片付ける前に私も身体を清めたほうがいいですね」カレンは着物を脱ぎだす。
日々の奉仕で鍛えた均整の取れた身体に冷たい水をかけ、身体を震わせるとサウナに向かおうとする。
ふと、先ほど神官たちから取り上げた『石』とお湯の残ったタライのことを思い出した。
「チーアも薦めてくれましたし、少し試してみましょう」
数分後。
「あら。これは良いですね」
また犠牲者が。




