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7 ラストステージ。微笑みをあなたに

 レディを爺さんたちに引渡し、俺は走る。たぶんステージの近くだ。

「では、最後のステージです」遠くでトリスタンの声が聞こえる。


「やるな。剣士。グラスランナー。だが、ここまでだ」


 ローとファルコの奮戦によって、

剣を持った男たちが何人も倒れている。


 二人とも深手を負っている。

対する敵の盗賊の首領と思しき男は軽傷。


「またんかぁああああああ!!!」


 シンバットの突撃をかわし、盗賊は俺に短剣を投げる。

俺の目の前で短剣が止まる。ロー・アースの防御魔法だ。


 シンバットから飛び降り、二人に手をかざす。

「女神よ。慈愛をもって此の者たちを救え!」


 たちまち二人の傷が塞がる。

「何者だ!」盗賊の首領が叫ぶ。


「ただの…『夢を追う者たちドリームチェイサーズ』だっ!」俺達は叫び返した。


「なにっ!関わると不幸になるという噂のっ!!??」


余計な事言うな!!


剣と剣が打ち合い、魔法が飛び交う。


 トリスタンの声がここまで届く。

「夢のステージを満喫ください。夢は夢。

ですが、たった一夜の夢は生涯の潤いとなるでしょう。

子供の夢は叶わずとも、子供に受け継がれ、人は希望を持って生きていきます。

今宵の夢は大人も子供も楽しめる夢。ではレィディ、シャルロッテの入場です」


観客の拍手と歓声がここにまで聴こえてくる。鼓膜が割れるような拍手。

心震える喜びの声。

血にまみれて剣と弓を振るい、魔法を操る俺達とは無縁の世界だ。

……いや、無縁であってほしい。


 「貴様らを倒し、公子を取り戻すっ!」

「させるかっ!!!」……公子??「トリスタンが??!」

「ルージェンダルク様はマルガリータ家の跡取りだ」

じゃ、この男達は公家の騎士か!!確かに強い!


 だが、暴れ馬シンバットと癒しの力が加わり、

騎士といえど鎧を着けておらず、馬にも乗っていない彼らと

いざというときは三位一体の力を発揮する俺達の力は拮抗している。


「……流石に強い!関わると貧乏になるといわれるだけのことはある!」


 『余計なこと言うな!』

今度は三人で叫び返した。


 「夢は夢。希望は日々の中に。今宵のステージは終わりましたが、

皆様の心にはきっと潤いと希望の炎が残ることでしょう。

では、気をつけてお帰りください。当サーカスより感謝を込めて…」


 エンディングの音楽。座長さんの挨拶が聞こえる。

一座の皆の礼が俺達にも見えるようだ。俺達もあそこにいたかったな。

ふとさびしさに襲われ、血のついた、血豆のつぶれた手のひらを見た。


 「もうやめようぜ。益が無い」俺は言った。

騎士達も剣を納め、ロー・アースやファルコもそれに倣った。



 「……私は戻りません。何度も言いましたが父に伝えてください」

凄まじい美男子が血まみれの戦場に踏み込んできた。誰だ??


 「ルージェンダルク様!!!」騎士達が叫ぶ。

「え???アレがトリスタンなの??!!」思わず失礼なことを叫んでしまう。

ロー・アースが頷き、膝をついて礼をする。マジでっ???!!!


 トリスタンは語った。悲しい男(トリスタン)を名乗るようになった由来を。

地方巡業を常とするサーカスは各地の情報をもたらす情報源としての機能を果たす。

この一座は、もともとマルガリータ家の出資を元にした…ある種のスパイ組織だったそうだ。

確かに、戦場近くまで慰問はなかなか度胸がないと出来ないが…。

 だが、団長の代になって、マルガリータ家の意向を無視し、

出資も断り、ただのサーカス団になったとの事。


 「私は知りたかったのです。

あれほど正義と使命に燃えていた、マーヴィンが国を裏切った理由を」


 マーヴィン…団長が自由になるためには監察役を受け入れる必要があった。

団長を暗殺してでも、機密を守るためと称して、

軍人であるマルガリータ家は絶対裏切らないであろう長子を送り込んだ。監察役として。

(あの団長さん、騎士様だったのかっ!!!!!)

 だが、マーヴィンとラムザ夫婦(そんな名前だったのか)は

監察役として訪れたルージェンダルクすら家族同然に接し、興行を続けた。

危険な戦地。荒廃した村落。疫病あふれる街まで。


 「マーヴィンは戦象すら手懐ける恐ろしい男……と最初は思いました。でも違った。

彼は今でも戦っています。人々の笑顔のために。私は、彼とともに生きたい」


 「女神よ。慈愛の奇跡を。敵も味方もなく。傷つくものに希望の光を」

俺の祈りに応えて、周囲に癒しの光が降り注ぐ。

女神の光を受け、毅然と話すトリスタンはまるで聖者のようだ。

とても変態とは思えない。


 一応、死人は出ていないらしい。敵味方とも皆無事だ。

騎士は応えた「必ず。お伝えします」

トリスタンは微笑んだ。俺達も。

俺達は手を握り合い。握手を交わした。

「民を護るは騎士の使命。道は違っても心は同じ。……必ずお伝えします」

隊長はそういって微笑んだ。


 ――で。あの請求書の山だったのね――

アキの凍りついた笑みに俺は頭を抱えた。


 俺が壊したテントの中の荷物。俺がぶっ壊した商店。その他。

なぜかゴリラやシンバットや騎士様達が暴れた分まで入っているのはご愛嬌。

(騎士様方のやんちゃは盗賊、ごろつき扱いになったので『誰かわからない』ので俺達のせいになった)

事態も騒ぎも役人や町の人を通して「五竜亭」に伝わり、俺達の管理責任としての請求書が回ってきたとの事。

 請求書は全てトリスタンが持ってくれたが、俺達のバイト料はパーになった。

と、おもいきや、団長さんがトリスタンが個人的に雇った護衛だった俺たちに給料をくれた。

「たった1週間でも、大切な仲間だったよ」とありがたい言葉を添えて。

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