4 謎の傲慢女とキザな貴族のボンボン
今回は一度に三話更新です。
「おそらく、慈愛神殿に売れば高く買ってくれると思いますが、私は慈愛神殿の人間ではないので」
そういってトート先生は俺に白い石と使用法を書いた紙(難しい文字だらけで俺には読めない)をくれた。
この石を慈愛神殿に届けて、作成の手伝いをして欲しいとのことらしい。
……俺もあの「慈愛深い方々(女性)の集まり」の神殿は苦手なんだが。
ファルコは「街のおそとで臭いが取れるまで暮らす~ 」と言っている。
ロー・アースは役所に行く用事が多数できたらしい。
どうも俺らが下水道に入る許可を得ずに下水道に入った事実がバレかけているらしい。
はっきり言うと書類偽造なのだが、コネを使って国王陛下公認の命令だった処理にするとの事。
下手をうてば俺ら4人の首が裁判なしで飛ぶ程度だったものが俺たちの一族郎党関係者全員絞首刑間違いなし。
かなり危険な賭けらしいのでがんばって欲しい。
と、なると装備品が使えない今の状況で、暇なのは俺だけになる。
狩にもいけない状況では、なにかの仕事がないと飯もロクに食えない。
「では、必ず高司祭様に届けてくださいね」
そういってトート先生は俺をスラムから追い出した。
愛馬に跨り、俺はため息をつく。
……よくよく考えたら貴族様でも持っていない屈強なガタイと白い毛並みの馬はめちゃくちゃ目立つ。
その馬に跨る悪臭を放つ黒髪黒目、自分で言うのもアレだが乞食のような服装の半妖精。
街中で職務質問されてもおかしくない。そしてそれは現実になった。
「そこの半妖精。待ちなさい」……。
俺はいやいや振り返ると、白っぽい馬に乗り、ピカピカの服をまとった怪しい集団が目に入る。
全員、輝くばかりの美男美女揃い。そして絵物語に出てくるようなデザイン性最優先の金属鎧。
正義神殿の聖騎士どもである。最悪だ。
聖騎士は正義神に悪人かどうかを判断する能力を与えられた使徒である。
オマケに全員が大国の騎士団長並みの剣技を誇り、
その上で全員高司祭級の加護を持っているというチートっぷり。
こいつらに逆らうと正義神の名の下に情け容赦なく斬り殺される。
「神に誓って申し上げます。俺は馬泥棒ではありません。こいつは俺の相棒です」
「嘘をつけ」……こいつら、嘘の区別は不可能なのか。
「俺は悪人ではありません」「それは本当だな」
「俺は本日、悪いことは一切していません」
「法を犯したかどうかは分からんな」「昨日罪を犯したかも知れんな」
聖騎士って奴らはその場で悪意を持っている者しか分からんらしい。
正確には悪意や害意を持っている者のみを見抜くらしいが、
正義神サマもはた迷惑で中途半端な力を人間に与えるようなことはやめて欲しい。
だいたい、法律だのは国家によって違うのだから、悪意だけ分かっても困る。
「乞食のようだが、邪教徒か」……。
「邪教徒のものは服すら満足に買えないのですね」
哀れむような目を向ける女に俺は切れた。
「やかましい!ボケ!禿!河童ども!
気に入らなければ相手怒らせて悪意があるから悪人だの言い訳して、
子供も老人も切り殺すキチガイどもの分際で人様に説教してるんじゃねぇ!」
ちなみに、河童とは東方の水神の仲間で、頭頂部に水をためる皿のような器官がある。
転じて、女性は髪の毛を金色に染めて禿げたり、
男性は頭頂部を剃る彼らの揶揄として有名だ。
「ほう。邪教徒の説教とは笑わせる」「天罰が必要ですね」
シンバットが荒々しい息を放つ。……頼むから俺を無視して暴れまわらないでくれよ。
「……私の友人に何か?」
涼しげな青年の声に場が固まる。振り返ると伯爵家跡取りのワイズマンとロー・アースの姿が。
「力には責任と義務、そして人の心が必要です。……貴方たちは心が無いのですか?」
「神より与えられた力を子供の虐殺に使うのか?それは神の意思ではなく、私欲ではないのか?」
小難しいことを言って聖騎士たちを止める二人。人の心でも私欲でもいい。俺たちの借金をなんとかしろワイズマン。
「神への侮辱になりますね」「聖騎士ならば、最初の剣士の魂に従え」
二人の涼やかな意見と皮肉に聖騎士たちが固まる。
「そ、そんなことはありませんわ。ロー・アース様!」
さっき皮肉を放った女が取り繕うとするが、
……ロー・アースのけだるそうな目つきをみて黙った。知り合いらしい。
「ワイズマン様。伯爵家の跡取りとは言え、聞き捨てなりませんぞ」
年配の聖騎士が睨み付ける。ワイズマンは涼しい顔だ。
「人の分際で神の力を都合よく使い、人を踏みつけて何が神の意思だ。
嘘偽り無く、シンバットはチーア君の馬だ。友人だといっても良い。
……伯爵家の名において保障するが?」
『貴族』の力があるものは嘘をついているかどうか見抜く力を持っているのは有名だ。
だからこそ嘘をつかずに人を騙す技術に長けているのだが。
「神を軽んじる『貴族』め」「妖術師め」聖騎士どもは小声で悪態をつく。
……人間には聞こえないかも知れないが、半妖精の耳には丸聞こえだぞ?
ちなみにソーサラーとは魔導帝国を滅ぼした魔導士たち、時の『貴族』への蔑称である。
「……卑怯なことを言っていいか?」
ロー・アースは口を開いた。
「???」
聖騎士たちは不思議そうに彼を見る。
「お前なんか嫌いだ」
ロー・アースの瞳は女のほうに向いていた。
「……」
黙った女に行きましょうと年配の聖騎士が声をかけた。
「失礼しました。パトロールに戻ります」
兜のバイザーを下ろした女の声は女というより、むしろ子供の声に近かった。
「なんだったんだ?あいつら?」俺は悪態をつく。
「よかったな。刺身になるところだったぞ」サシミって言うのは東方の料理らしい。
黒髪黒目の人間が喜んで食べるそうだが、特殊な薬草のすり身と特殊なソースが必要らしい。
代用として、岩塩とバジルとオリーブオイルでもなんとかなるらしいが、極めて不評だ。
「まぁ、良いではないか。友の友はわが友だからな」ワイズマンは楽しそうだ。
「つまり、君も私の友なのだよ。シンバット君」
「あっ」……シンバットは近づいてきたワイズマンを蹴飛ばした。
「やはり私は乗せてくれないか」
大笑いしているワイズマン本人は「貴族」なので傷ひとつついていないが、
本来なら飼い主の俺の首に関わる事態なのは理解できる。クソッタレのワイズマンの心は海よりも広い。
「ありがとうございました。ワイズマン……様? 」俺はかしこまって礼をするが。
「ワイズマンと呼んでくれたまえ。友よ」とあっさり返された。
うう。このキザっぷりはまじめに恥ずかしい。
俺が苦悶していると震えていると思ったのか、
彼は俺の手をとり、軽くキスをした。……。
「え~と」
俺はワイズマンの顔を見る。ほっぺたに赤いもみじ。
「ごめんなさい」
謝ってすむ問題じゃない。4人まとめて裁判なしの斬首刑の軽減、
国王陛下の命令を騙って一族郎党そろって絞首刑の危険を甘んじて受けた大恩人(?)に
俺はなんてことをしてしまったのだ。其の前に俺たちの借金何とかしろだが。
「ふはははは!本当にチーア君は愉快だ!……友よ。式場は決まったか? 」
どうしてそうなる。俺とロー・アースは脱力して抗議した。
と、いうか。式場……まぁいい。この話題はまた後日語る。




