2 謎の石。『石鹸(セッケン)』
風呂? 二人のは不思議そうな顔をしている。
毎日風呂に入っているのはこの中で俺とアキくらいじゃないか?
親父が住んでいる小屋にはなぜかいつも入れる温水風呂とサウナがついているが、
この『五竜亭』にもサウナ施設と風呂が別棟にある。
アキがこの職場を選んだのも「毎日タダで風呂に入れる」からだという。
風呂って言うのはお湯がはいった泉とか桶とか容器とか馬鹿でかい壷を用意した身体を洗う施設だ。
世界中みてもあまり無い。『熱き水』が沸く地方は別だが。
理由は知らんがアキみたいに黒髪黒目の人間はこれに毎日入れない場合狂ったように機嫌が悪くなる。
エイドさんも良く考えたら黒髪黒目だから風呂が必要なんだろう。
一方、サウナはある程度機密性のある建物に焼き石と水があれば比較的楽に作れるので世界中で見かける。
もっとも、毎日入る酔狂者はあんまりいない。薪が無いのだ。
「で、香りは?? 」……。
「風呂に入ればそりゃ身体は綺麗になるし、臭いも良くなるが」これはレッド。
銀貨三百枚の価値って解るか? と脅しをかけてくる。
風呂に一度二度入っただけでそこまで身体が綺麗になることもないし、いい香りがすることもないと。
本来の俺の匂いとも微妙に違うのでなにかあると二人は指摘する。
ままよ。俺は懐から白い石もどきを取り出した。
「石鹸だ」
『セッケン??? 』
二人の声が人気のない店内に響いた。
俺はいやな思い出を振り切るようにため息をついた。




