1 謎の芳香
「ねえ!チーア!! 」
この店のウェイトレスのアキがまた騒いでいる。
「くさいからでてけ」俺は言い返す。
「それ、私の台詞…… 」アキはそういうとちょっと落ち込んだような顔をする。
「もう臭わないから店にいてもいいけど」うっせ~。アキ。呪うぞ。
実際のところ、頭から水をかぶって「浄水」の力を水霊に願えばいかなる汚れも臭いも取れる。
俺には既に臭いなんかないはずなのに、俺たちが下水道に侵入したことを知った彼女に散々からかわれた恨みはまだ切れていない。
「ローはまだ役場?」たぶんそうじゃないか?
俺たちの借金生活の諸悪の根源。伯爵家の跡取り息子ワイズマン。
そしてアキだが、ワイズマンはロー・アースの友人らしく(類は友を呼ぶとはよくいった! )、
彼とロー・アースは下水道に侵入した俺たちの首を繋ぐべく、いろいろな手続きに追われている。
まぁ、本来即刻斬首刑な人間が『4人』もいるんだから当たり前だが、
親友の友だからという理由で俺たちの助命にまで奔走してくれているらしいが。
助命以前に、アイツがっ! アイツが逃げなければ俺たちは下水道に入ってないんだっ~!!!
「ところで」
内心激怒している俺にアキはつぶやく。
「チーア。香水でも買ったの?」ありえん。
香水って奴は貴族様がウンコだの汗だの垢だの小便だのフケだのの臭いを防ぐためにつける。
当然、馬鹿みたいに高い。そして体臭もあいまってありえないほど甘くて強烈な臭いになる。
もっとも、香水とは言いがたいが、
冒険者の中にはアキやフレアみたいに果実をすり潰した汁を香り付けに身体につける者もいるにはいる。
「香水とも違うけど、爽やかで甘い、いい匂いがするのよねぇ……」わからん。
「秘訣教えてくれたら、今日のご飯おごってあげるけど?」俺が聞きたいわ。
「『浄水』じゃね?」俺は適当に答えたがアキはかぶりをふった。
「浄水の加護を使うと水の臭いすらなくなる」レッドが笑う。盗賊の常識らしい。
……ああ。『アレ』の所為か。『アレ』の話をしていいものだろうか。
「椅子。銀貨三百枚だからね」……ぼったくりじゃねぇか。
住み込みの現場労働者の一か月分に相当する。
「俺も知りたいなぁ」「知らん」
レッドは楽しそうだが俺は知らぬ存ぜぬを通すことにする。
「俺、椅子燃やしてないって言っていいか?」「私は見た。真実を」
……。
わぁったよ。俺はつぶやいた。
「風呂だよ。風呂」俺は経緯を説明する羽目になった。




