6 黒い稲妻
鼻を突く異臭は血だけではない。
強い音と臭いと光線を放つ何かを爆発させたのだろう。
グラスランナーの優れた五感を逆に潰すためか。
「ファルッ!! 」
酷い血の臭いがする。
短剣に鞘をつけて闇の中探りあう二つの影。
片や無傷。片や利き腕を潰されている。
「来ちゃダメっ??! 」
すごい勢いで二つの影がこっちに向ってくる。
俺の眼前でファルが止まる。振り返りざまに歯で服の飾り紐を引き抜き、振り回す。
もちろん、ダメージを与えるものではないが、一瞬でも怯ませること、相手の位置を測ることはできたらしい。
二つの影が交差する。
ファルコは利き腕から少なくない血を流している。
奴の盾に仕込まれた三連ダガー発射装置の音。
そのままシールドでぶん殴られ、怯んだ影は壁を蹴って俺に迫る。
「……ちいや??! 」
「『光霊』!! 」
強烈な光が俺たちを照らす。それまで闇の中で戦っていた二人は光を受けて呻く。
「風よっ!! 」
強風を受けて怯む影。コイツが『黒き針』?
今ならいける。
『闇霊!!! 』恐怖もつかさどる闇の精霊。コイツを受ければ気絶間違いなし。
……闇霊と光霊はお互い対消滅。精霊の世界に戻った。
あ。
「ごめ」「「……」」
すごい勢いで俺に迫る影。あ。ダメだ。早すぎ。すまん。ファル。
!!!
『黒き針』の短剣が俺の喉元で止まる。
「間に合いましたっ!?? 」女性の声。
「『明かりよ』! 」今度こそ光霊とは比べ物にならない光が俺たちの目を焼く。
「『捕縛』! 」しかし、捕縛の魔導の力は防がれる。
『黒き針』はそのまま地面を蹴り、家々の壁を蹴って逃亡した。
あとにのこされたのは。小さな。小さな……俺の相棒。
「ちいや……」
「ファル?! すまん! 今治してやるからなっ?!! 」
すばやく癒しの力を注ぐが傷が塞がらない。毒かっ?? 毒ならなんとかできるぞっ?!
「盾の三連だがーはっしゃそうち……やくにたったねぇ」
「お、おいっ? 解毒剤があったろぅ?? 」
「てぃあ……気にしなくて……ぼくが……しゃべっちゃったからばれたんだし」
ずるっと崩れるファルコ。……奴の腹が暖かい。
俺の声の所為で俺の位置とファルコの位置がばれ……たのか。
「だめ」だめだめ。
「嘘よ……? ファルコ?? あたし……ね……ご……」ごめんなさい。
「わたしのせいでっ!!!!!!!!!! 」
どれだけ泣いたか判らないが、わたしは誰かに頬を叩かれ、腕を引かれて走っていた。
「落ち着けっ??! 癒しの魔法の効かない致命傷でもなんとかしてやるっ! 」
「泣くのは早いですよっ??! 」
「この時間は何処の施療所も開いてないかも知れませんが叩きおこしてやりますっ?! 」
「落ち着きなさいっ! 」「……まだ間に合います!! 」
……蹄の音がする。白くて大きな……神様の乗るような馬。
「ごめん……シンバット」
シンバットはいさめるように俺の頭に噛み付いた。
「いででっ??! 離せっ!! 悪かった!! 悪かったってっ?!! 」
そして器用にファルコを載せて駆けていく。
「こっちだっ!! シンバット! 近くに腕のいい闇司祭が住んでいるっ! 」ロー・アースの声がする。
俺はふらふらと彼の声のするほうに走った。後ろから俺を止める声がした気もしたが気にもできなかった。




