3 あ。スマネ。レッド
「ファルコ~~! 何処だっ! 」
次に蹴飛ばした扉の奥にはカードゲームに興じるゴロツキ風の男たち。
「……おまえ、ここが何処だか知ってるのか? お嬢ちゃん? 」
「じゃかましい! ファル……ミリオンの息子が来てなかったか??! 」
『ミリオンの息子』俺の見立てではあの餓鬼は盗賊だ。手癖悪いし。
「……誰に聞いた? 」「レッドって奴に聞いたぜ? 」
「……奴は川にでも流すか」
あ。すまんレッド。
「冗談だ。実はミリオンから聞いた」
ミリオンはファルコの親父だ。まぁレッドよりは心が痛まない。
それを聞いて彼らはため息をつく。「『図書館長』か」「まぁあの人の意図は俺らには想像もつかんし」
俺を無視して小声でなにか言い合う連中。
「……で、なにが聞きたい?」「さっきも言ったが?」
「質問を変えよう。なにが要らないか選べ。金か? 命か? 尻の穴か? 処女か? 」……金で頼む。
『五竜亭』の盗賊。レッドに言わせるとこの酒場は盗賊ギルドに関係しているから近づくなということらしいが。
「時間が惜しいんだ。金か命で頼む……って言いたいが人探し中でね。幽霊の身じゃちょっと都合が悪い」
おどけて首をすくめてみせる。ロー・アースの虚勢の真似だがうまくいった。
男たちはニヤリと笑う。
「ほう。餓鬼の癖に良いタマじゃねぇか。じゃ……」俺は黙って金貨を投げつける。
「ほう?気前がいい餓鬼だな」「急いでいるんだ。小便が近くてね。『便所を借りていいか?』」
そういって肩をすくめて笑ってみせるが、誰も笑わない。しまった。
「……」
男たちが顔を見合わせる。
「失礼しました。こちらに」
へ???!!!
……。
…………。
……とりあえず。ファルコは知り合いのスラムの医者。トート先生の家に向かったらしい。
まったく、チョロチョロチョロチョロ走り回りやがってっ!
「……??? ファルコさんですか? 」
糞尿の匂いを放つ医者は謎めいたお湯(?)を俺に出してくれたが俺は手をつけなかった。
「トート先生。ファルコきてましたよね?! 」「ええ。解毒剤がほしいと言うので」
「先生、解毒剤まで作れるんですかっ??! 」「……一応、医者ですしね」
……なんか忘れているような。……あっ?!
「すいません。ファルコの所為です」
頭を下げる俺。……約束すっぽかしてしまったもんなぁ。
クスクスと笑うトート先生。「それより重要な話があるのでしょう? 」見抜かれている。
相変わらず散らかっているし、ウンコを煮たり焼いたりとはっちゃけた研究をしているので、
トート先生の医務室兼研究室兼診療所兼自宅はひどいことになっている。
「解毒剤ができる間いろいろ機材をいじって遊んでいましたからね」「また散らかしやがって」
トート先生はにこりと笑った。
「……意図的に遊びつつ散らかしたんでしょうね」「???」
「ファルコさんのいつもの悪戯とは思えませんから。ほら、このナンバーの患者さんのカルテがありません」
「先生。何度も何度も言うようで申し訳ありませんが。俺は字がほとんど読めないんですが? 」
「……失礼。ええと。医者の守秘義務に反するのですが」「イシャノシュヒギムってなんすか? 」
「……医者が患者さんのことをペラペラ喋るようでは信頼は得られません。それでは良い医療はできないということです。えっと、チーアさんでいえば懺悔室で信者さんから聞いたお話は胸に留めておくと言えば判りますか? 」
ああ。兄貴もやってたな。理解した。すいません。不勉強でした。てか、あの神殿行きづらいけど。
「消えたカルテの患者さんに処方したお薬はすべて猛毒。致死量といっていい量なんです」???
「……そいつ、人間なんすか? 」腑に落ちないが。
「見た目は。そうですね。目があって口があって目と耳が二つ。鼻の穴が二つ」ふざけてる場合ですかっ??!
「先生。場合によっては『額を合わせますよ? 』」時間が惜しい。
「……せっかちですねぇ。チーア君には心を見る力があるんでしたっけ」トート先生はにこやかに微笑むと席を立つ。
「心を読みたいなら額どころか、唇でも性器でも存分に……じょ! 冗談ですよっ??!! 」
そういって寝台の上に座って上着の胸元を広げようとするので、近くのツボを投げつけようとした俺にトート先生は慌てふためく。後で聞くととんでもなく高いツボだったらしい。
「医者の守秘義務もいいですけど、そのカルテの奴をファルコは探していると思うんです」
「ロー・アースさんもそう仰ってましたね」なにっ??
「でも、ロー・アースさんの仰っていた特長とは違いますからね。私の患者さんは」??
「ですが。もしなくなったカルテの患者さんと戦うおつもりなら、その薬湯を飲んでおいたほうがいいですよ? 」
つまり。
「……コレ、『俺ら』には『解毒剤』ですよね?」「ええ」
声が震えているのを感じた。
「……『ソイツ』に使えば???」「多分死にます」




