第六夢。あの子の影を踏まないで プロローグ
「息子を探してっ!」「いいよ」
今度の依頼は「駆け落ちした息子の捜索」
例によって安請け合いしてしまったファルコを追うチーア。
しかし、依頼者の息子は既に還らぬ人となっていた。
「もうっ!知らないからなっ!」チーアの絶叫が遠ざかるファルコに向けられる。
「この臆病者どもがっ??! うちの息子を誰も探してくれんのかぁ??! 」
冒険者の宿『五竜亭』で婆さんがまた騒いでいる。
「婆さん。また来たのか」俺は呆れながら婆さんの相手をする。
本来は店主の仕事なんだが、まぁどうせ仕事もないし。
『息子探し。銀貨3000枚。依頼者 アイアンハート男爵家 ラフィア』
何処にでもある依頼だ。
そして誰も受けないまま羊皮紙がボロボロになっていき、やがて壁から落ちて依頼人すら出したことを忘れる類の依頼だ。
大方駆け落ちかなにかだろうが、労多くて厄介ごと更に多い依頼を引き受けるのは。
以前、「あ、これやる! 」と叫んだら親父さんに「やめておけ」と睨まれた。
事前に調査した結果、息子さんは駆け落ちしたと依頼者に伝達済みとのことらしい。
正直、借金生活をしていると「仕事が一杯壁に張り出されているのに何故請けれないのか」と疑問に思うが、
親父さんが言うには『事前調査した結果、依頼を受けると労力の無駄になったり犯罪に加担しかねない依頼があった場合などはあそこに張り出しておくんだ』そーだ。
つまり、依頼人は諦めていないが、店主的には『請けるな』というお話らしい。
貴族様の駆け落ちなら尚更だわな。
「な、な、今日のところは帰れよ。婆さん」俺は何度目かわからん会話をする。
「あ、あんたは探してくれるって言ったじゃないかっ! 」確かに初めて婆さんに会ったときはそういったが、あとで親父さんからたっぷり説教された。
張り紙の依頼にも受けちゃダメな依頼があるって説明してくれなかったほうも問題あると思うが。
「ああ。やっぱり駆け落ちに水を差すのは不味いわ」本心を偽るのはあまりいい気はしないが。
「うちの息子は、ちゃんと両家の決めた婚約者がいてっ! そこらの娘と駆け落ちなんてっ! 」
……するんじゃね? たぶん。
男爵は貴族としては最下位だが、ややこしいことに実力で成り上がった連中なので独自に軍もってたり、
金もってたりするし、領地内の独自裁量権も下手な貴族よりある。
が。車輪の王国では本来男爵家は一代限りなので何処ぞの名家から嫁もらってこないとタダの金持ちに戻るそうな。
相手が性格悪い、態度もデカイ、家名だけはあるが稼ぐ気ゼロ。
人様の財産使う気だけは満々の女とその一家とかじゃそりゃ嫌だろ。一代で成り上がった先代が不遇すぎる制度だ。
「あっれ~? おばあちゃん、またきたんだ!? 」のんびりした声。
見た目は幼児。言動も幼児。挙動も幼児。どう見ても餓鬼だが実際に餓鬼。
俺の相棒のファルコ・ミスリル(自称みすみる)だ。一応妖精族なので歳は取らないだけだが。
「ね、ね、また昔話聞かせてよ! 」
「ああ。主人と私が出会ってからだったっけ? ……あれは主人が魔物を討伐した勲功で男爵の称号を…… 」
助かった。さすがファルコ。……疲れたら帰るだろう。
……トート先生との約束の時間まで暇だな。
今から狩ってワケにもいかないし、ボーっとしておこう。
だいたい、未成年を酷使しすぎなのだ。この宿の連中は。特に、アキとかアキとかアキとか。
……。
あれ。ばーさんまだ熱心に話しているのか。
……。
……むぅ? 今日は格別に長いな。
「息子を……息子を。産んだの」「お~! 」
「息子をっ! 息子を探してっ! 」「いいよ! 」あ。
「いってくる! 」ちょ! まてっ!!! トート先生との約束はどうしたっ?!!
相変わらずすごい加速だ。追いつけるもんじゃねぇ???!
――― シェイハシェイハ! シェイハシェイハ!
オゥイエーイ! オゥイエーイ! オゥイエーイ! ―――
「おいっ??! 勝手に依頼をうけちゃって!?? 知らないからなっ!! 」
郊外の森に俺の絶叫が響いた。




