8 侍祭。ジェシカ
カラン。
扉がまた開いた。
「……」
なんかキッツい顔の美人だな。
一歩歩くだけで華やかさと気品がにじみ出るようだ。
慈愛神殿の侍祭を示すやや地味な服を着ているが、それが却って彼女の華やかさを引き立てている。
「……ここは別嬪さんがくるところじゃねぇぜ? 」
俺はやる気なさそうに告げる。後ろにカレンを見かけたからだ。
「……チーア様。アンジェを見かけませんでした? 」
侍祭位を示す服を身にまとった美女の後ろのオールドミスが俺に声をかける。
アンジェはテーブルの下に素早く隠れて、ファルコと「「し~♪ 」」と言い合ってじゃれあっている。
「さぁ? 俺はアンジェって子をカレンさんから紹介されてなかったと思うが。何処のアンジェだい? 」
そういってとぼける俺に苦笑いするカレン。
「あのときの四人組の一人です。我が神殿の神官見習い……下級神官ですね」へぇ。
「チーア様。御部屋の準備が出来ているのですが」
侍祭といえば神殿の儀式を取り仕切る司祭の補助をする役職だ。当然エライ。
華やかな印象のある女だが、それなりの地位にあるのだろう。
「だから、俺は。『弟』って言ったぜ」
あくまでとぼける俺に地味な服を着た侍祭は僅かに笑った。
「身に覚えのない他人の借金を背負わされて、冒険者になっている。そう窺いましたが」
俺はそっぽを向く。この人たちを巻き込みたくないし。
「私は、慈愛神殿の侍祭で、ジェシカと申します」
穏やかな笑みを浮かべて、ジェシカは恐ろしいことを言ってのけた。
「店主を出しなさい。出るところに出ますよ? 」
アキはそれを聞いて顔を青くする。
ファルコとアンジェはテーブルの下で石遊びをしている。




