1 慈愛神殿の神官長
話はちょっとさかのぼる。色々あって変態医者の手伝いをする前後の話だ。
ドワーフの村にいったり、変な館の掃除をさせられたりで、
なんだかんだで再会しそびれた兄貴に逢う為、
兄貴が15のときから御世話になっている慈愛神殿を訪れた俺。
誰がどうみても不審人物な俺に神殿の美女どもは冷たい目を送った。
どこが慈愛の女神の使徒だか。そりゃ、ちと臭うが。
いや、スラムの変態医者の手伝いなんざやっててウンコの匂いがついてるのだ。
だが、俺が親父の紹介状を見せると、門番の娘達は慌てて神殿の中にかけていった。
……入っていいのかなぁ。待っとくか。
そうしてボーっと待っていると、
奥のほうから少々オールドミスが入った凄い美女がやってきた。
「……お初に御目にかかります。チーア様」ペコリと俺に礼する。
目つきは少々キツイが凄い美人だ。こんな美人が兄貴の知り合いか。
……。
「兄貴、やっぱいないんだ」
放浪癖が酷いと思っていたがここまでとは。
なんでも、最高司祭に抜擢されたその翌日には旅に出てしまったらしい。
結核を治す方法を求めてとかなんとか。単に旅が恋しくなっただけだろうけど。
親父もわかっているなら言えよなぁ。まったく。
「ええ」
その美女は途中で話をきられたので眉を軽くひそめた。
だが、その仕草さえ美しい。
「あと、その『様』ってやめてくれね?」
親父の使いで来ただけだし。
「トーイ様から『妹を宜しく』と……」
眉を顰めたまま話す彼女に苦笑する。
「妹? 女に見えます? 」
意地悪く笑う。ちなみに、髪はボサボサの上、適当に掴んでナイフで切っているので所々禿げている。
服装も兄貴のお下がりだ。身体は小さいが、胸もまったくない。女には間違っても見えないはずだ。
「……しかし」
「兄貴の、冗談だと思います。あと、『兄貴』って勝手に呼んで、
この神殿の飯をたかろうとしている乞食かもしれないじゃないですか」
そういってカラカラと俺は笑って見せた。
なんでも、兄貴は俺が住むための部屋をこの神殿内に用意してくれていたらしい。
でも、今の俺は借金苦にあえぐ冒険者モドキだ。
貧乏神殿といわれるこの神殿の世話になるわけにはいかないだろう。
「ところで、綺麗な御姉さん。御名前は? 」そういって笑ってみせる。
「カレン。カーンプール村のカレンと申します。以後、お見知りおきを。チーア様」
そういって彼女は俺に跪こうとする。
「いいって! 要らないっ!! 」
俺、兄貴の地位と無関係だしな。
「神官長のカレンさんって兄貴から手紙で聞いてます。
俺は字が読めないから、親父伝手だけど」
「畏れ多くも。わたしはただの神官です。年長なのでそう呼ばれているだけです」
真面目な人らしい。好感が持てる。
「……そういえば、いくつっすか? 」「??? 」
不思議そうにしているカレンさん。
「いや、兄貴の奴、手を出したりしてねぇだろうなと」
俺がそういうと笑い出したカレンさん。
……めっちゃ美人だし。ちょっと兄貴より年上でトウが立って見えるが。
だとしたら兄貴は21歳だし、早く結婚してあげないと行き遅れてしまう。
「女性に、年齢を聞くのは、今後辞めて下さいね」
「いえ、他意はないっす。ただ、兄貴と恋人ならさっさと結婚させないと不味いかなと」
そういうと彼女は苦笑した。「そういうことなら、私とトーイ様にはそういう関係はありません」
へぇ。
「男の方を泊める宿舎がないので、厩で寝泊りしていてもらっていたのですから」
……兄貴は馬好きだからいいが、待遇酷くね?
「そうです。そんな酷い神官『長』と恋仲になるはずがないでしょう?」
キツイ顔立ちだが、かなり気さくらしい。
……ん?兄貴が下っ端の神官のときから通称『神官長』?
「それに、わたくしは45歳です」「今、なにをいいました???! 」
「 4 5 歳 で す が 」「わんもあ。ぷりーず……」
ですから。カレンは脳が動いていない俺に眉をひくつかせながら告げた。
「私は45歳です。トーイ様とそんな関係になるはずがありません」
「うそやっ??!!!!! どこが四十五歳っ??!!! 」
俺の叫びが、慈愛神殿に響いた。




