第五夢 幕間劇。翼喪いし天使と赤き瞳の盗賊 プロローグ
「おい。チーア」
「なんだよ。レッド」俺はその男にウンザリしていた。
親切なのはいい。とにかくからむ。お節介にも程がある。
俺、チーア。一応、冒険者。正確には借金苦にあえぐ冒険者モドキだが。
「お前、童貞だろ」「……」
俺は無言で、その盗賊の顔に空の木製ジョッキを投げた。
「ははは。照れるな照れるな」
そういって、レッドは俺の背中をバシバシ叩く。
黒い眼鏡に赤い目。笑い上戸で気さく。
悪い奴ではないと思うが、盗賊なので悪い奴なんだろう。
「ファルコ、お前もだ」
足元でちょろちょろと遊んでいるファルコの首を掴むレッド。
「みゅ」ぱたぱたと暴れるファルコを見ながら、レッドは笑った。
「と、いうわけで、今夜空けておけ」
はあ? と言う俺に。
「お前等を男にしてやるよっ! おごってやるからさっ! 」
俺は、黙って奴が勝手に座った椅子の背を後ろに引いた。奴は機敏にはね、転倒を避けた。
「ひどいの。ぼくまでけがするの」あっ。
「……すまね」「だよなぁ。かわいそうだよなぁ。ファル大丈夫か? 」
……前言撤回っ!
「ちょ? ちょっとまった?! チーアッ!? 殴るなっ! 悪かったからさっ!! 」
先輩を殴るとか酷い話だが、其のときの俺は少々切れていた。
まぁ、レッドだし、問題ない。
隣では、そうやってじゃれる俺たちをアキが愉しそうに眺めていた。
「……レッド。チーアやファルちゃんをからかうのはやめて」
アキはニコニコ笑いながら、俺とレッドの間に割って入る。
「チーアも先輩を殴ったりしないの」「うっさいっ! レッドが悪いっ! 」
「……それに、童貞が気になるなら」クスクスとアキが笑う。
???
顔が赤いが、アキのヤツ風邪か? 最近多いしなぁ。
しばし沈黙が続くが、潤んだアキの目線を見るに。
「風邪なら寝ておけ。アキ」「……ばか」
???
ぷいっ。と首を回し、アキはレッドが抱き上げているファルコを無理やり奪い。
「ファルちゃん。私が大人にしてあげて良いわよ~」……。
……おい。
ファルコは必死でアキの両手から逃げようとしている。本気で嫌がっている。
「っっっ!!! 」
ファルコは泣きながら『五竜亭』を出て行った。あ~あ。
「まって~! ファルちゃんっ??! 悪気はないのっ?! 」大有りだろ。ボケ。
呆れる俺とレッドは地団駄を踏んで悔しがるアキを見ながらため息をついた。
今回は一日一回更新でエピローグ掲載は22日を予定しています。




