エピローグ。 ぼくらのスゴイヤツら
さらに数週間後、お上に呼び出された俺たちは豪華な部屋の中にいた。
ものすっごく、ものすっごく居心地がわるい。
久しぶりに会うトートは前より酷い匂いを放っていた。女官達があからさまに顔をしかめている。
当然のように俺達は「浄水」の魔法を何度もかけられ、所持品に消臭や浄化や補修の魔術を施された。
おかげで、武器や防具の補修代金が大幅に軽減された。助かった。
ふと、俺達の隣に気さくそうな爺さんが座った。
「ファルちゃん。ひさしぶり」「ひさしぶりなのなの! 」
どうもファルコの知り合いらしい。
豪華な服を身にまとっているから貴族かもしれないが、どういうコネなんだろうか。
なぜかロー・アースが席から立ち上がり、膝を突いている。
……なんのギャグをやっているんだろうか?
「あれは凄いね」「おといれ? せっけん? 」
石鹸というトンでもない代物については、後日語ることにする。
「そうそう。妻も娘も感激してたぞ」「おー! 」
貴族様も似たものを作って実用化しているのか。暇な話だ。
他国なら糞壷から窓に放り出せば終わりの話を、
噴水の技術を応用し尻を洗った上でその水の流れを利用して糞壷表面を洗浄、
その水の力で古代の下水処理施設にそのまま廃棄して、廃棄の手間を省けるという、
画期的な糞壷の再現は、ちょっとした名物になり、早くもあちこちで普及しはじめているそうだ。
豚と肥料育て(太陽の光が足りないので光の魔法で代用できないか試験中とのこと)、
伝染病との関連性についての仮説も検証されているが、皆本気にしていない。
成果が出、実用にいたるまでは相当な時間がかかるだろう。
君がチーア君かね。と老人は笑う。
「そーだぞ。爺さん」俺は言葉を返す。
「ドライアド君に似ているな」
……母さんの知り合い???
ふふふ。と老人は笑って席を立った。
「また会おう」
まったね~! と手を振るファルコを見ながら、
変な爺さんに絡まれたなぁと思う俺だったが。
役人どもに呼び出され、無理やり膝をついて話を聞かされる俺達。
ファルコにいたっては正座して聞いている。
「技師トート、及び『夢を追う者達』三名に称号を授ける」
はぁ???!!
称号? ……って事は。俺らが騎士??! 貴族??!
「「「辞退します」」」
俺達三人はあっさりと答えた。
トートは喜んで受けたようだ。頑張って欲しい。
「他国なら……壷から窓に放り出せば終わりと思われていた……壷を。
噴水の技術を応用し……洗った上でその水の流れを利用して……壷表面を洗浄、
その水の力で古代の処理施設にそのまま廃棄して、廃棄の手間を省く。
偉大な魔導帝国の遺産の再現に貢献し、都市の衛生面大幅に向上。
のみならず、『石鹸』なるものの開発、販売にて人々に貢献。
伝染病の予防、浄水技術、食料増産、衛生、美容など国家や王妃様に貢献した功績を認め、
技師トート、及び『夢を追う者達』に称号を授ける」
……おい。
王の御前なので、糞の一言を言うにいえない役人に周囲からクックと笑いが漏れる。
「だから辞退します!!! 」俺達三人は必死で叫んだ。
「いらんのか? 謙虚だな? 」
にっこり笑う「国王陛下」はあの楽しそうな笑みを浮かべていた。
そして。
俺達はしばらくの間『糞を追う者たち』のあだ名で呼ばれることになった。最悪である。
もし、郊外の森の中の奇妙な形の小さな冒険者の店を訪れる事があったら。
もし。叶わぬ願いを君が心の内に秘めているなら。
迷うことなく俺達を指名して欲しい。きっと、願いは叶うから。
ただし、『余計なオマケ』については自己責任で!
(Fin)
この駄文を糞尿を通して世界の来るべき食料危機を回避せんと尽力された故中村浩博士に捧げます。
(次回予告)
スラム住民とトートの仲立ちを手伝う三名。
しかし、その身はうんこまみれで臭い。
そんなチーアに別の「くさい」危機が迫る。
恋愛フラグをバキバキと折るチーア。お前しっかりしろっ!!
今回も目立てないファルコ。
お前主人公だろっ?! しっかりしろっ?!!
次回。第五話。幕間劇。『翼喪いし天使と赤き瞳の盗賊』。
一日一話投稿(全12回。最終更新6/22予定)。ご期待ください。




