10 ひとつの試練が終わった
「さて、頑張って作りますよ!!! 」
トート先生は使命に燃えているのでどうしようもない。
数週間後、「自信の糞壷」がスラムに出来た。
誰でも使えるように工夫をした結果、スラムのみんなに使ってもらえるよう無料で公開された。
俺はトート先生にはわからない「ある機能」の追加を提案した。
元になった古代遺跡の便所にはあった機能である。古代人の知恵は偉大だ。
「ええと」トート先生は楽しそうに言う。
「おしっこやうんちを飛ばして的を狙うとか、絵を描くとか、
排泄の速度を競うとかいうゲームは今回発見できませんでした」
残念ですとトート先生は言うが、そんなもの再現できるはずはない。
既にトート先生の性格を知っているスラムの皆は大笑いしている。
「でも、糞壷を窓から捨てる手間に変わるくらい、楽しい糞壷は作れました」
将来的には携帯可能を目指します! とトート先生は意気込む。
よーわからんが、綺麗にした「水」を噴水の原理でもって噴射、
尻を洗うのみならず、掃除を勝手にやってくれ、ついでに下水に流してくれる画期的な代物らしい。
……使用法を解説してもらい、「便座」と言う椅子に座る。
壷と違って、中腰にならなくて良い。楽だ。俺はズボンを脱ごうとして。
下からのぞくトート先生の顔に気がつき、踏んだ。
ちゃんと下水に流せるか試験するためと解説されたが、やっぱり、変態だった。
……。
なんというか、その……すごく……快適というか、スッキリと言うか、身が清められたというか…。
古代人の知恵に感動しつつ、俺は個室から出た。
隙間から覗こうとした男女はローの眠りの魔法で退治されていた。グッジョブだ。ロー・アース。
次々と男女が試しにはいってみては出て行くが、中には気持ちよすぎて出てこない困り者も続出した。
特に女性の評判は物凄くよかった。男にはわからない世界であろう。
「私の仮説が正しければ、これが普及すれば伝染病は激減します!!! 」
「「「おおおおおおおおおおおお!!!! 」」」凄い! 凄いぞ! 先生!!!
「でも、道路に糞壷を投げていたら元通りですから、それだけ気をつけてくださいね! 」
「「「面倒くせぇ!! 」」」
大笑いする住民達。にこやかに微笑むトート先生。
「皆さん。ロー・アースさん、チーアさん。ファルコさん。助けてくれて本当に有難うございます。
……これで、伝染病や食糧難や食中毒で死んだ方々も浮かばれると思われます。
私はもっともっと研究して、もっともっと効率よく、沢山うんちを食料に出来る社会を目指します。
そうすれば、世界中が都市になっても元気に生きていけるはずです」
壮大すぎる理想だが、彼ならやり遂げるかもしれない。世が世なら大天才といわれただろう。
「「本当に、本当に有難うございます」」トート先生は頭を下げた。
このまま、スラムでウンコの研究をしながら暮らすそうだ。
「前より臭くなっちまったが、トート先生ならしかたないわな! 」盗賊風のアンちゃんが笑う。
「あの豆、品切れらしいから、沢山作れるようにしてもらわないとな!」……気に入ったのか。ご愁傷様。
「アンタ! 今夜は寝かせないわよ! 」「おうよ! 任せろ! 」……お幸せに。
「願いを叶えてくれる冒険者。スカラー君の言うことは本当でしたね」トートが笑う。
……ほうほう。そういうふざけたことをアキが言っているのか。あとでまかないに例の緑の豆を入れておこう。
「ありがとうございます。最後に、皆さんのお名前をもう一度教えてくれませんか」
「「「ただの、『夢を追う者達』です」」」俺達三名は名乗った。
「「「ああ。あの宿を半壊させたという噂の? 」」」
「「「余計なことを言うなっ??! 」」」
俺たちの仕業じゃねぇ??!!
スラム街の皆に俺達は笑いながら叫び返した。大笑い。
「じゃ、俺達はこれで」俺は笑って手を振る。ローが背をむけてひらひらと手をふった。
「ま~た~ね~~~!! 」ファルコが楽しそうに踊って手を振り続ける。
口笛を吹いて呼び出した愛馬、シンバットは俺達を見ると嫌そうに首を振った。
もう下水道に侵入してから2週間たっているんだっ! いい加減にしてくれっ! シンバットッ!!




