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4 男装女神と女装姫君

 「はい! チーアちゃん!できた〜〜!」憂鬱な気分で姿見を見る。

「コレ、誰?」「チーアちゃんです! パチパチ!!」シャルロッテが手を叩く振りをする。


 「おー!これはなかなか!」

「素晴らしい美姫だ!」

「さすが半妖精!なんという気品!」

爺様婆様方が大喜びしている。…… や め て く れ 。


 「じゃ、明日は私が王子様でチーアちゃんがヒロインだから、ちゃんと台本見ておいてね!」

だ か ら 、 勝 手 に 出 す な ! ! !


 「チーアは大根だからやめておけ」

ロー・アースが横から割って入ったことで俺はヒロインにならずにすんだ。

……代わりに翌日、同じ黒髪の「美姫」が劇のヒロインとして登場したが。


 「ローさんおつかれ!

……すっごく綺麗でびっくりしました。明日こそはチーアちゃんに出てもらうから」


 ……もう何が起きても驚くなよっ!!

俺がヒロイン役だった日の劇は散々だったことを付け加えておく。もうスカートなんて穿くかっ!


……。


 「なぁ」俺は洗濯の手を止めずに呟く。

「ん?」「なぁ〜にぃ?」二人の返事を待たずに言った。


 「おかしくね?ここ」

春の風が冷たい。俺は手を擦る。ちょっとあかぎれが出来たかも知れない。

あかぎれの薬を爺様方にあげたらとても喜んでもらえたことを思い出して笑みが出る。

薬作りと料理と癒しの技は達人の兄貴直伝だ。『使徒』であることは伝えていないが、

伝えたら最後、全員の肩こり腰痛関節痛を治す羽目に陥るだろう。

あの兄貴も放浪癖さえなければ大司祭様なんだろうが……。

いったい何処で何をしているのやら……。


 「どこが〜ごはんおいしいよ〜」「気にするな」気になるから言っている。

「昨日はボヤ騒ぎ。おとといはテントが破かれる。

その前の日は衣装が破れて治すのに奔走…明らかに悪意があるだろ。」

いたずらってレベルじゃねーぞ。まったく。


 「まぁ、良くあること」「あることあることないこと〜!」

俺はのんきな二人にあきれつつ、

「もし悪戯者に出会ったらとっ捕まえてやる」と心に誓った。

「むり〜」ファルコはのんびりと言った。

「返り討ち間違いなし〜だな」ロー・アースは気の抜ける喋りで言ってのけた。

て、てめえら、覚えていろよ!


 その夜。

俺は自主的にテント周辺に隠れて周囲を警戒していた。

狩人の親父から身隠しの技は伝授されている。まず見抜かれることは無い。

加えて俺は夜目が利くし、見ようと思えば多少疲れるものの幽霊だのオーラだの見える。

てめぇで言うのもアレだが夜間に見張りをするにはうってつけの人材といえる。

俺は格闘はてんでだめだ。戦うなら飛び道具ミサイルウェポンしかない。

 だが、街中で弓を放つわけにもいかないので、スリングと狐を獲るためのヨーヨーを持った。

肩には細いロープ。腰紐の代わりにボーラを巻く。準備は万端。

真っ暗だが、周囲の温度の揺れを見れば人間がいるかどうかくらいならわかる。

俺はあえて明かりを持たず、不審な奴がくるのを待つことにした。


 ……。

ああ!もう!!!

俺はもともと気が短い。狩人に向いていないとも言う。

くるならさっさときやがれ!不審者!


 早くもしびれを切らした俺は隠れ場所から飛び出すと、倉庫代わりの小さなテントの屋根に登り、

空の星を眺めながら気温の揺れとオーラを探る。はたからみると遊んでいるようにしか見えないだろう。


 うとうとしだしたところ、人の声に気づいた俺は目を覚ました。

何人かいる。「……」「……!」小声で言い争っているような雰囲気だ。


 「てめえら!大人しくしやがれ!!!!!」

俺はテントの屋根から飛び降りるとロープを……「トリスタン?」

そこにいたのは依頼人のクラウンのトリスタン。

 「……あんた一人か?」「……びっくりしました」いや。俺もびっくりした。

お互い精霊の使い手、夜目が利く。

 「チーアさんは何を?」「いや、ボヤだの何だのあったから悪戯にしちゃ度が過ぎていると」

自主的に見張りをしていた次第と説明すると暗闇の中、奴はにやりと笑った。

「夜更かしは美容の敵ですよ」「まぁ先にちょっと寝ておいたからな。大丈夫さ」

「美容だけではなく、貞操の心配も」つつつ……と近づいてくる。

「そういう冗談はやめんかっ!」


 「おっかし〜な……。確かに人の争うような声が聞こえたんだけどなぁ」俺は頭を掻いた。

寝ぼけて夢でも見たのだろうか?そんな筈はないのだが。

 「ここには私しかいませんよ。ちょっと目隠し芸の練習を」

…あんたは目を閉じていても「見える」だろうが。と思ったが黙っておいた。

たとえ周囲の温度やオーラが「見え」ても、

いや、視界以上のものが「見え」るがゆえに立ち回りなどが気になることもあるだろう。

そういった職業的なことまでは俺にはわからない。


トリスタンと別れ、自分たちの天幕に戻ろうとすると軟らかいものを踏んづけた。


「ぴぎゅ」…ファルコ??


 「いたい〜ひどい〜!」

ペチペチと叩かれる。なんでこんなところにいるんだ。

「ふあああ……確実に返り討ちだからな〜ファルコが助けにいこうって言い張ってな」

で、道端で寝てたのかお前らは。


 「お前ら口喧嘩してなかったか?」

「いつものこと〜♪」……こいつらか。

杞憂だったか。


 俺はバカらしくなって天幕に戻り、毛布に包まった。

職業柄、寝つきはいいほうだ。俺はすぐに眠りについた。

このままサーカスの人間になってもいいかもしれない。そう思いながら。

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