7 漢(おとこ)トートは突っ走る
「いいですか? 森を焼くと10年も持たない畑が出来る代わりに、
100年単位でエルフの怒りを買い、森の再生も同じくらいの時を必要とします。
しかし、肥料を使えば、一年間に一回同じ畑を使えるのです」
ウソだろっ!!! ……失礼。
なんとか、『ウンコだけを食べて育った豚さん』料理の
ショックを克服した俺たちに、トート先生はにこやかに講義を続けていた。
学者の講義と言うのは面白くもなんともない筈なのだが、トート先生はその限りではない。
基本的に理想に燃えていて、人間や亜人の『命』が大切だと考える人らしい。
俺よりよっぽど慈愛の女神の使徒っぽい。問題点を挙げれば変態なだけだ。
今度の講義は『肥料』っていうウンコから作る魔法の薬の講義である。
俺たちだけではなく、なんとかショックから回復した住民の皆さんも引き続いて聞いている。
「休耕地にお花の一種を植えて豚さんを飼えば更に食料生産の効率を上げれます」
流石にそれは大嘘では??
「いえ、理論上一年に2回以上育ちますよ? 」「マジですか…」
「実験しましたから。もっとも素人の私では別の理由で枯らしてしまいましたけど」
栄養がありすぎても植物は枯れるらしい。難儀な話だ。
「皆さんは戦乱や飢餓、水不足、水を飲んでおなかを壊すなどの理由で身内を亡くされたことはないのですか」
「「あるにきまってんだろ」」そんな人間はこの世にはいない。全員口をそろえた。
「この藻が育てばそれがなくなる世界になります」「……」
俺達は絶句した。なんという偉大な男だ。この男は。
そうやって見とれていると彼はいきなり、衆人環視の中、ズボンを脱ぎだした。
「ああ。ションベンです」そういってコップみたいな器具に小便を注ぐ。
器具から出てきた水をカップに入れて、飲む。
「綺麗で、飲める水になりました」……マジで??
ロー・アースが「飲まなければ良かった」と苦笑いしている。いまさら何を。
見てみると確かに水の精霊の力を感じる。本当かよ。
「すげぇ! 俺らの飲んでる水より綺麗だぞ? 」「上水道の水を汲みに行かないとこんなのはのめない! 」
皆が大喜びしている。……まさか。ガチか??! 確かに先生はそう称して綺麗な水を持っていたが。
……試しに普段飲んでいる水をこのカップに突っ込むと貴族が飲むような綺麗な水に化けた!
「こ、これって工房の汚染水や鉱毒にも効果がありますか?? 」
鉱山を下手に掘ると呪いが大地に降りかかるといわれている。
一部では毒の一種といわれ、「鉱毒」といわれている。
このカップを『孔雀石』に届けたらきっと喜んでくれるはずだ。
……そういえば、あの修理代の件、どうなったんだろう。エイドは一言も言わないけど。
「まだ実験中ですがいずれは」
「すげぇ!! 魔法だ! 」「魔法ではありません! 英知の力です!! 」
そして、英知を学ぶ勉強は誰にでも出来るのです!! と、トート先生。
「トート先生! 俺も勉強が出来るんですか? 文字だって読めませんが」
「喜んでお教えしますよ? 」「「おおおおおおおおおおお!!! 」」
あ。俺も文字読めねぇ。まぁいいや。困ったことないし。……たぶん。
問題は。とトート先生が言う。
「食料がないから戦争をする。戦争がなくなれば傭兵が野盗としてあぶれる。
野盗は食料を生産しませんので農村を襲う。農村が滅びれば余計食料がなくなるのです」
……ダメじゃん。
「ですから、野盗の皆さんが野盗を辞めたくなるほどごはんがあればよいのです」
兵士や冒険者を雇うより平和的でしょう? とトート先生。
「そのためには、もっともっともっとうんちの研究を極めねばなりません」
トート先生は微笑む。
「行政の許可が下りないならば、下水道にはいってうんちを盗みましょう」
俺は逃げようとしたが、トート先生にがっちり腕を捕まれてしまった。
「世界の平和のために、戦いましょう!!!!」




