5 やりすぎだイタズラ
「どうして頬を叩くのですか」
トートは涙を流して不満の顔をする。
……。
「なんかあったの~?」「ふあぁぁ。どうした?」
ファルコとローと住民達が戻ってくる。
「別に何も変なことは言っていません。排泄してくれと言っただけでして」「「「……」」」
住民や温厚なファルコはもとより、流石のロー・アースもドン引きしている。
「男性なら他人、可能なら美形の異性、女性的な容貌の少年の排泄を見るのは興奮するでしょう? 」
「しません」「しない」「するとしても流石にそれは公言すべきでは」
本当に、本当に正義神殿の異端審問官が狩りにくるぞっ??!!
ふう。とトートはため息をついた。
「つまり、生物にとって欠く事のない営みである排泄は、実に軽く見られているか、
汚いもので、ないものであってほしいと思われているのです」
慈愛神殿では自衛以外の暴力は禁止されているが、流石に排泄を異性に要求するのはどうだろう。
まぁ、トート『先生』は俺の性別に気がついていないと思うが……。
「かくなるうえは古代の排便そのものを楽しんだという文化を復活させるしかありません!
それも早急に! 世界に広めなければ世界は滅びてしまうでしょう!!!! 」
「「「「……」」」」
変人だが、真面目で気さくな性格と確かな医療技術、しかも金を不要とする態度。
一週間足らずでスラムの住民の心を掴んだトート先生だが、流石にドン引きである。
「なんという糞の理想」と、ロー・アース。
「なぜそこで世界滅亡なんですか……」スラムの住民達もドン引きしている。
世界制服だの滅亡だのは古代魔導帝国が滅びた今は頭のおかしくなった魔導士くらいしか口にしない妄想だ。
「とーとのおっちゃん。世界が滅びるって? 」
ファルコがいつもの調子を取り戻す。
単純に、ドン引きしすぎて思考能力が低下しているだけかも。俺もそうだし。
「チーアさん。皆さん。こちらに」
そういってトートは俺達を自室となった廃屋に案内する。
(住民が診療所として急遽建設してくれた廃屋なので比較的新しい)
糞尿を煮たり焼いたり溶かしたりする強烈な匂いに頭がおかしくなりそうだが、必要なことらしい。
「見てください」
俺達は小さな壷に魅入る。
「ガラスだ」
ガラスはドワーフが作る宝石の一種で、
壊れやすいが硬くて腐食にも強く、任意の形を取らせることができる。
「先生、ガラスなんてよそ者がもってたら盗っちゃいますよ?」盗賊風の住人が苦笑する。
「ガラスなんて大した品ではありません。所詮砂ですから」はい??? 砂???
「砂??? 」「ガラスが砂??? 」「所詮砂?? 」
「結構簡単に作れますよ? 」
先生は苦笑するが全員呆然としている。
この先生、ドワーフの秘法をなんだと思っているんだ???!!
「でも、本質はそこではないのです」先生はにこやかに話す。
「皆さん。このガラスの壷の中には命の循環と世界平和への結論があるのです」
……えっと、正義神殿に連絡したほうがいいのかなぁ……。




