4 ウンコ狩り
「変な医者だよなぁ。トート先生は」
ごろつき風(というか、ごろつきそのもの)のごつい人々や目つきの悪い女共が笑う。
俺はトート「先生」の医術活動につき合わされ満身創痍状態だ。
図らずしも精霊の使い手で癒し手だとバレてしまったので、さっきから回復魔法や精霊の加護、
医者の真似事、料理の手伝いとこき使われた。
ファルコはあっさり場になじんでいる。傍目は幼児にしか見えないので当たり前なのだが。
ロー・アースは薬の調合の手伝いだ。もともと魔道士、お手の物だ。
「うんこなら糞壷にたっぷりあるから、好きに持っていってくれよ!? 」
「では、道路にある分も頂いて宜しいですよね??? 」キラキラした目で喜ぶトート先生。
「そりゃ、金はいらん。ウンコくれってお医者様、今までいませんでしたから!!! 」大笑いする住民達。
「では、遠慮なく頂いていきます!!! 」
スコップを手に飛び出さんとするトート先生を俺は止めた。
「あの、仕事には道を覆うウンコの塊というか床というか……。それの掃除も含まれているんですか? 」
「当然です」
トート先生はにこやかに微笑まれた。正直、俺は泣きたくなった。
トート先生はスラムの住民の医療活動に終始せざるを得なくなっていたので、
俺達と住民有志(ウンコを買ってくれるという酔狂ものがいるのだから仕方ない)が必死で道路の床と化しているウンコを除去する作業を行う。
「おーい! 投げるぞ~~! 」「なげんな~~~!! あとで集めるのが大変だ~!! 」
「ふざけるな。下まで降りるのが面倒なんだぞ! 」「投げたら分け前やらねぇ!!! 」
……たしかに、糞壷を指定の場所に持っていく人間と言うのは何処の国でも稀だが。
「ある種のカビですね。目を洗浄しました。これで見えるようになりますよ」
トート先生はにこやかに微笑む。喜ぶ老人。変態だが、結構エライ人かもしれない。
「やっぱり水ですねぇ」とトート先生は言う。
先ほどの目の病気の原因は水に含まれる見えないカビの所為とのこと。初耳である。
汚い水のある国では病気の元を駆逐できないらしい。
「糞壷の改良が必要です」とトート先生。はぁ。と俺は呟いた。
適当に出すだけだしたら窓に捨てるだけのものをどう改良しろと?
まぁ、車輪の王国では古代の下水道を利用できるので、糞壷のない家庭も珍しくはない。
行政の指導どおり建築して便器に糞尿を排泄し、水周りで利用した生活排水を下水に接続する。
そうすれば汚物は勝手に古代の下水道が処理してくれる仕組みである。
この関係で汚物を収集するためにワザワザスラムに出向くことになった。
この下水と上水完全分離システムは慣れるとよその国にいけなくなりそうで怖い。
「そーですね」トート先生はにっこり笑った。
「チーアさん……」「はい? 」
「脱いでください」はいっ????
な、なんだ??? それ? いきなり脱がせようと襲ってきた男とか女は限りなくいたが??!!
ハァハァと興奮した息遣いがトートから漏れる。
「そして私の前で排泄してください。できれば大小」その頬は紅潮し、瞳は潤んでいる。
「先生」俺は微笑んだ。




