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3 The・サーカス!

 「あなたたちが『夢を追うもの達』ですね。

わがサーカス団の洗濯の仕事を手伝ってくださる最適の人材と店主から伺っております」


……俺達に「金が無い」ことに対するイヤミか?俺は憂鬱な気分を隠せなかった。


 奴は俺の沈黙を誤解したのか、俺にウインク。

「申し送れました。私はトリスタン・ルージェンダルク・マルガリータと申します。お見知りおきを。美しいレディ」

俺は肘を立てて頬を支え、話を横から聞き流していたので盛大にテーブルからずり落ちた。

誰がレディだ。というか、貴様のそのひどい名前は何だ。

(余談だが、先祖にマルガリータという女性がいたかららしい)


 「どうなされましたか?レィディ?」「……すまん。俺は男でね」

(実際、アキには言えないが女だからと得した記憶が無いので普段から男として通している)


 「失礼しました。その可憐な顔立ち、女神のような声、美しい手。細身ながら締まった身体……

……とても魅力的なものでつい……」 そこで黙るなっ!俺は鳥肌立った。

実際問題、ホモに襲われた経験もまた数限りないのだ。(男装している意味が無いともいう)


 ローが咳払いした。「失礼ですが。マルガリータ様」

よかった。助かった。ありがたい。さすがロー・アースだ。


 「一晩500ガメルです」

「たったそれだけでよろしいのですか?珍しい黒髪の半妖精ですし、700は」「では800ですね」

「勝手に人を売るな!!!!!!!!」俺は思いっきり奴の頭を引っぱたいた。

冗談にしても度が過ぎている。


 こうして、俺たちは彼に雇われ、サーカスの人となったのはわかったか?アキ。

……普通、座長さんとかが来ないか?って?

俺も一瞬そう思ったが、疑問は空腹が吹き飛ばした。やっとまともな飯が毎日食える。


 「では続きまして。当サーカスのスター。レィディ!シャルロッテ!の入場です!」

ステージ中央に浮かぶ(ここだけの話、魔法ではなく、丈夫な紐で吊っている)トリスタンが叫ぶと

5体の光霊が宙に浮かび、彼の周りを回転し始める。ステテテと響く太鼓の音にいやでも心動かされる。

その回転は太鼓の音とともに速く、速くなっていき、場内は太鼓の音とともに静まっていく。


 綺麗だ…。

スダダッ!!と大きく太鼓がなり、光の矢のように光霊が飛んでいく。そして破裂。場内を包む大きな光!

その中央に、光霊よりも輝く美少女が照らし出される。


 「シャルロッテ!シャルロッテ!」「レィディ!レィディ!」

「お前らここにいたのか」俺達はローに引きずり出された。

「さぁお仕事お仕事。洗濯済ませちまうぞ」

「おねがぃ!見せてぇ!」「おーい!今いいところなんだぞ!」

「ああ…」「やった!」「さすが!」「…っそ」……。

後は言葉にもできぬ俺達の空しい抗議の声が春先の空に響いた。



 ロー・アースが何をしてもとりあえず驚くべきではない。

その動きの早さや要領のよさはどう見てもプロの洗濯屋だ。


 問題は。

「ぺちゃ」たらいにつける。

「ぷっくぷっくあわあわごっしごし〜♪」たらいから地面に。

「楽しいなったら楽しいな♪」洗濯物の上でダンス……。


「邪魔すなっ!」俺はファルコを怒鳴りつけた。


 「みゅー」ああん!どこ走ってるんだ!「待てっ!ファルコ!」「こっちこっち〜!」

追いかけっこをする俺達の横で、ロー・アースは黙って洗濯をしていた。

「むきゅ〜」俺がやっとファルコを捕まえたときにはあらかた終わっている。


 しかし、なんて多い洗濯物だ。人間のものならまだいいが、トラ、ライオン(っていうでかい猫)、

ゴリラ(というでかいサル。シャルロッテの相棒だ)。トドメに。


 「……コレ、どーするんだ?」ローが言う。見てみると象(というでかい生き物)の服。

「でっかいタライ用意して、『浄水』の魔法で洗おう」と俺。

俺は水精の少女を呼び出し、『浄水』を頼んだ。


……水精の少女は、明らかに嫌そうな顔をした。



 「皆さんご飯ですよ〜!」ステージを終えたシャルロッテが呼びに来てくれる。隣にはトリスタン。

「つっかれたね〜!」元気に笑って飯場に向かうファルコに

俺は「なんもしてないだろ」と悪態をつかざるを得なかった。


 ……ここでサーカスのスタッフたちを軽く紹介する。

洗濯と雑用係は俺達。チケット販売やモギリも手伝う。

一応、用心棒でもあるらしいが、そんな機会は訪れなかった。

 

 余談だが、大量に渡されたチケットをさばくのに必死の俺を差し置いて、

ファルコとロー・アースはあっさり帰ってきた。

「お前ら、捨てたんじゃないだろうな!」というと「友達いないだろ」と言われた。悪かったな!


 座長さんはシャルロッテのお父さん。丸々としたビール腹に気の良い笑顔の男性。

この姿で空中ブランコの達人だ。時々、輪に引っかかる芸で皆を笑わせてくれる。

先代のクラウンでトリスタンの師匠らしい。


 セクシーな衣装に身をまとい、手品や炎を操るのはシャルロッテのお母さん。三十代中ほどだが、

色気はまったく衰えていない。今でもシャルロッテと並んでファンレターが多いそうだ。


 シャルロッテは動物使い。相棒はゴリラだが、ライオンもトラも象も彼女の言うことは良く聞く。

歳が近いこともあり、あっという間に彼女とは仲良くなった。

ただ、事あるごとに俺に化粧を施そうとするのは勘弁して欲しい。


トリスタンはクラウンだが、進行役も行う。あの光霊の演出は彼の技らしい。貴重な魔法使いだ。


 他のお爺さんとおばあさんたちは引退した演者で、

ステージの人員が足りないときは現役に一時戻ることもあるが、基本として裏方で働いている。

俺達のボスといっていい。


 ファルコは事あるごとに彼らにお菓子をもらったり、ナデナデしてもらって喜んでいる。

ロー・アースは無愛想で他人に無関心だからどうかとおもったら、

老人の話を聞く特技があった(もう今更驚かない)ため、意外にも周囲に溶け込んでいる。

浮いているのは俺だけかもしれない。

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