2 ふざけた野郎のふざけた依頼
「キィ」とドアが開き、「シャラン」とドアの鈴が綺麗な音色を響かせる。
ふと鈴の音に振り返った俺の瞳に焼きつく朝の黄金色の光。
真珠の肌と涙に潤んだエメラルドの瞳。
彼女の豊かな黄金の髪が俺の視界いっぱいにうつったそのとき、
彼女は俺の細い腕に抱かれていた。
俺は、彼女の裸の足が紅に染まっていることに気づく。
介抱された少女は言葉少なに彼女の苦境を店主に告げる。
「仕事だ」
波瀾万丈の冒険の幕が開ける……。
……と、いうのは一枚ガメルもする羊皮紙の無駄遣いのようなアホな三文冒険談の、
はじまり、はじまりぃ〜だぁ!!てねっ!!
(*作者註訳:ガメルは各国共通通貨。1ガメルは銀貨1枚に相当する)
だいたい、冒険者やっていると美女に会える!とか、
美女の依頼人が訪れる。とか、甘すぎる考えだっつーの!!あーはっはっは!
アレは全人口の1%もいない『冒険者』たちの中でも女冒険者は10人に1人もいないので、
恐ろしく珍しい若い娘の依頼人は飢えた男どもには充分美人に見える。それだけだって!
――酷い店だとその場で輪姦されるらしいが――
実際の依頼人とくるとコレがまた酷い。というか凄い。
目つきの悪い盗賊、性格の悪そうな傭兵などは『マトモ』な分類だ。
勿論、あからさまに犯罪な依頼なのだが裏が取りやすいだけマシといえる。
それ以外となると、いかがわしい女を何人も連れまわしている腹の出っ張った醜い商人とか、
不細工な奴、顔が傷だらけのヤクザモドキな奴、
アブネー目つきの魔術師や賢者、
どこぞの宗旨(まさか暗黒神じゃねーだろうな?って奴も中にはいる)か分からない神官
。
……まさに『怪しい』って看板しょって歩いているような奴らばっかりだ!
勿論、今回の依頼人もまた『怪しい』奴である。
いや、犯罪者の『怪しい』とはまた毛色が異なるのだが、
それでいて最高級に『怪しい』依頼人だった。
そいつは、ピエロだった。そういう格好をしていた。
別にピエロが怪しい職業とは言わんが、こういう店で原色たらたらのド派手なメイクをして、
大量のボールやビンでお手玉しながらこっちに来る男はあからさまに目立つ。というか友達と思われたくない!
しかもその理由が『自分が何者か一目で分かってもらえるから』ってんだから依頼内容と同じくらいフザけているっ!
実際、あの場ではファルコ以外はシラけていただろ?
「わーい!ぴえろさんだー!ナイフのおてだま!たまのりー!!」とか…。
……ん?ピエロと道化師は違うって?
初めて聴いた。大した差ではないと思うが……。
なに?大違い?え?一緒に騒いでいた奴がいるって??
……無言でアキが指差す店内の掲示板。
「魔法を芸に使わないでください。大変危険です」そう描いた張り紙には
明らかに水や炎を操って笑う俺の似顔絵であった。
…無駄に似顔絵が巧い特技は何とかしろ。ロー・アース。