1 おかえり
「たっだいま~~~!!」
ファルコはその宿が目に入ると、凄い勢いで駆け出し、その宿の扉を開いた。
美しい森の真ん中に建つ二階建ての六角形の塔と別棟の奇妙な外観の宿。
久しぶりに見る『五竜亭』は以前と同じように完全に修理されていた。
ドワーフの仕事はやっ??!! 本気で凄い連中だ。
「ファルちゃん!! おっかえり~!」
おれたちを出迎えたのはこの店のウェイトレス。名前は忘れた。
伯爵家のボンボンに請求し損ねた膨大な修繕費と宴会代を、
貞操の危機を救った俺達に押し付けた憎むべき娘である。
「ロー!! お帰りっ! どうだった?」
嫌がるファルコをホールドして頬ずりしつつ、
その娘は愉しそうにロー・アースにはしゃいで見せる。
「宿の修理状況を見れば判るだろう」
ロー・アースはにべもない。そりゃそうだ。恩知らずすぎる。
「ちょっと! なんで逃げるのよっ??! まって?! ファルちゃんってばっ?」
本気で嫌がって逃げ出し、ロー・アースの背中で震えるファルコをあやしながら俺はその娘に一言。
「帰ったぜ。恩知らず」
その一言を聞いて恩知らずの娘は頬を膨らませた。
「私には、アキ・スカラーと言う立派な名前があります。チーアちゃん♪」
はぁ。俺は内心ため息をついた。
変な奴を助けてしまった。自分のお人よしに呆れる限りだ。
「おお。帰ったか。帰って早々悪いんだが。頼みがある」
熊だか食人鬼だか判らん。ごつい容姿の多分。人類。
「おい。エイド……さん。人使いが荒いぜ」
悔しいがスゲェ迫力だ。少し怖い。
そんな俺にエイドは「ほう?口の利き方がよくわかってるじゃないか」と哂う。
「ああ。熊だか食人鬼かわからん奴には俺だって口の利き方を考えるさ」
そういっておどけてやると、彼はずっず~んと落ち込んで、
2m50cmの巨体をしゃがみこませて、店内の床に指で「の」を描き出した。
「ガウルの奴、子供に口の利き方教えてないんじゃねぇか?」
そういって嘆くエイド。ガウルは俺の親父であるが、常識など通じない。
この熊もどきは、微妙に繊細らしい。親父じゃないが、扱い方を覚えたかも。
「チーアちゃんって言ったっけ? うちの主人をからかわないで」
振り向くと金髪碧眼の凄い美人が微笑んでいる。
俺より数歳しか離れていないように見えるが、なんと二十代半ば近くらしい。
「えっと」名前忘れた。「アーリィよ。チーアちゃん。よろしくね」
そういってアーリィはロー・アースに近づくと腰を落とし、
「おかえり♪ ファルちゃん」ととびっきりの笑顔を彼に見せた。
ファルコはロー・アースの背から彼女の豊満な胸に飛びこんだ。
「ただいま」




