第三夢 愛と箒と埃をもって プロローグ
今度の依頼は『掃除』。
「なめんなっ!」
チーアがまたもキレた。
プロローグ
「きっれ~だったねぇ!『孔雀石』ねぇちゃん!」
ファルコがはしゃいでいる。
小石ひとつ落ちていない街道をノンビリと歩く俺たち。
後ろからファルコが可愛がる驢馬と俺の相棒の暴れ馬がついてきている。
「シンバット。もう少し今日は歩くぞ」
白馬は嘶くと俺に従う。
季節は春と言うが、まだまだ寒い日々が続く。
そんな三月の半ばごろ、俺たちは長居してしまった村を離れ、
懐かしい家路を目指している。
「らいと~。よ~しよし~♪」
ファルコはそういって草でできた箒のようなもので驢馬をあやしながら先を進ませる。
驢馬がいなければもっと早く走れる彼だが、小さな幼児の彼が持てる荷物には限りがある。
もっとも、彼のまんまるで柔らかい耳の先は少しとがっているが。
宝石の村と呼ばれるドワーフの村、
トロックの呪い騒動を解決した俺たちは、
友人になった『孔雀石』と『藍銅鉱』の結婚を見届けた。
幸せになれよ。『孔雀石』。
本当に本当に、彼女は美しかった。
「あれだ。相手がいなければ惚れていたかもなぁ」
だれかれともなくそういって俺たちは苦笑した。
明日をも知れぬ借金地獄の俺たちには結婚なんて夢のまた夢。
『五竜亭』の修理代金その他請求はお一人様銀貨10万枚♪
「ロー・アース。『孔雀石』さんと結婚しておけばよかったんじゃね?」
そうすれば俺たちまとめて自由だし。
俺がそういってからかうと彼は苦笑し、「莫迦を言え。ファルコ、お前は?」
話を振られたファルコは俺たちの足元までてけけっ!と駆けて来てにっこりと笑い、
「うまにけられるとしぬの~!」とはしゃいでみせた。
人の恋路を邪魔する奴はなんとやら。
ドワーフの青年とエルフの美少女、幼馴染同士の恋。
女神様は時として粋な計らいを見せる。
「御礼なんて良いのにな」
特に俺。……なんもしてないというか脚引っ張ってたし。
「あとで贈ると言われてしまったな」
そういって苦笑いする青年、ロー・アースに歩調を合わせてやる。
ドワーフたちにもらった黒い靴は『底』があって凄く歩きやすい。音も立てない。
皮でも木でもない不思議な素材で底ができていて、俺の俊足を助けてくれる品だという。
いいものをもらってしまった。にしし。思わず笑みがこぼれる。
思い出し笑いなんて少し気持ち悪いと自分でも思うが、今度の狩にも履いていこう。
「……どうした? チーア? 俺の顔に何かついているか?」
ロー・アースの目と俺の目が合っている。
……急に顔がカッと熱くなった。なんでだ?
「ああ。きったねぇツラだから呆れてたのさ」
そういって少し歩調を速めて彼の先を歩く。
……べつに、なんだ?変な意味はないぞ?
なんというか、ホラ、こいつだけ『人間』で歩くの遅いし。
俺。チーア。半妖精。狩人の子だったりする。
ようわからんが、母親の血筋か精霊の声がわかったりするし、
放浪癖の兄貴の影響で慈愛の女神さまの力を借りることが出来る『使途』である。
そして。多分。……『冒険者』なのかも。
「この石、綺麗なのっ!」
うれしそうに微笑むファルコ。ファルコ・ミスリル。
どうみても五歳児。しかし、恐ろしいことに彼は俺より年上。らしい。
ファルコがうれしそうにかざす石は磨くと淡い光が満遍なく周囲を照らす貴重な石である。
希望石を魔法加工した不思議な石との事。その意は。
「『夢を追う者達』。か」
ぶっ!!!
ロー・アースの何気ない呟きに思わず噴出した俺を見て、
ファルコが「だいじょぶうなの?」といって背伸びし、俺の背をとんとん叩く。
「そ、それ、恥ずかしいからやめろっ! ロー・アース!」
俺の抗議に肩をすくめて苦笑するやる気のなさそうな顔の青年。
「かっこいいのっ!」愉しそうに足元で微笑むファルコに「余計な事いうなっ!」と言ってやる。
「え~いいじゃん!」
「かっこ悪いからやめろっ!」「ええっ~!」
「二人とも、じゃれてないで先を急ぐぞ」「うっさい!!」
朝露が残る街道を歩く俺たち。
命溢れる春は、もうすぐやってくる。




