7 『霧雨』の伝説
「この水車や風車ですが、粉を作ったり風をつくるだけではありません。
水を遡らせ、家々に配るためにも使います。細かい機械の仕組みはいえませんが」
つまり、砒毒をふくむ風や水が村のあちこちに届くってことか。
「なんとかならないか」
俺は何度も"浄水"を使いフラフラだった。勿論『孔雀石』も。
俺達二人で何とかできる毒の量を超えているのだけは間違いない。
この里を覆う毒の量は普通じゃない。
「そういえば、この村ですが、はじめから鉱山があったそうです。
資源豊富な鉱山でありながら、何故か廃棄されていたのを父が見つけて開かれたと」
「……村の記録を見せてくれ」
「ええ。父に頼んでみます」
ロー・アースが真剣な顔で頼む。『孔雀石』も真剣に頷いた。
村長に記録が置かれた部屋に案内された俺達は一斉に記録に取り掛かるが。
「……ドワーフ語読むの。ぼくできない」
ファルコが口を尖らせた。俺も喋るだけなら解るんだが。
「ロー・アース。読めるか?」
彼は両手の手のひらを上に上げて見せた。無理らしい。
「私だけですか……少し時間がかかりますよ?」
「おれっちも本なんて普段よまねぇが、お嬢のためだ。頑張るぜ」
文字が読めない俺達は乱雑な記録を年代別にまとめ、
読み終わった資料をまとめて記録しなおす作業を担当する。
まったく文字が読めない俺にいたっては完璧な肉体労働である。
「こういうのはおれっちにはむかないんだが」「っふふ♪」
微妙に背中がくっついています。おふた方。
「……おい。ロー・アースサボんな」
『孔雀石』さんは一度に4冊の本を机に置いてぱらぱらとめくっただけで
「次!」と言い出すのでたまらん。
どうも、本の内容を絵として頭の中に全部暗記できるらしい。恐ろしい能力だ。
「そちらは新王国暦492年です」「そっちに新王国暦495年の記録を」指示も的確で早い。
ファルコが独楽鼠のように走る走る。なかなかの活躍……ん?
「本を並べて倒して遊ぶなっ!」
「みゅ~」
俺に耳を掴まれてじたばたするファルコ。
本は貴重品である。弁償させられたらたまらない。
ファルコの相手をしていると、ロー・アースがサボっている。
……おい。サボんなって言ったぞ。ロー・アース。
「……ちょっと待ってくれ。チーア」
またねぇよ。俺は奴から本をひったくった。
「ん?コレ、なんか違うぞ」「古代魔導帝国時代の文字だ」「???」
俺から本を奪い返すと、彼は一心不乱にそれを読んでいる。
「魔剣。『霧雨』に関する記録だな」「???キリサメ????」
「伝説の剣だ。その長さ、握りを含めて2mの業物だ」
でけっ??!人間が使えるもんじゃねぇ?
「レイピアのように細く、剃刀のように鋭く。岩をも切り裂く名刀とされる」
砕くんじゃなくて切り裂く?なんじゃそりゃ?
「あれだ。『カタナ』って武器を知ってるか?あれを長くした外見らしいな」
東方片刃剣はどっちかというと美術品だが、その切れ味はミスリルソードに勝るという。
「刀身は常に結露し、触れた血や脂を洗い流し、切れ味は衰えることなく。
また、常に美しい水を生み出すことが出来、あらゆる毒や呪いや病の元凶を浄化するとされるな」
……それって。
「……聞いたことがあります。父は元冒険者だったと」
「おれっちも聞いたことあんな。その魔剣、あっちこっちでコピーが作られたって言うぜ」
主に水源に置かれたり、『呪いが発生した地域や鉱山の浄化』に使われたそうだ。
「……そういえば、村長は一人でこの村を起こしてから、同族を呼び寄せたらしいな」
……地脈探しは普通は複数人の有志で行われるはずだ。
「……私の『母』や『父』は」
「おそらく冒険者時代の仲間だな」ロー。少し遠慮しろ。
「繋がったな」
「うん」「ああ」
「お嬢。気に病むな」「……うん。『藍銅鉱』」
「つまり」
「魔剣・霧雨があれば……呪いは防げる!?」




