5 春よ 来い
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背後からロー・アースの首筋を狙うように放たれた鎌の一撃。
それをかるくしゃがんでかわしたロー・アースの脇をすり抜けて大鎌が『女神像』の首筋を後ろから狙う。
逆手に握られたロー・アースの剣が鎌と挟み込むように首筋に当たる。小さなヒビが走るが、破壊に至らない。
「さっさと決めてくれッ ロー・アースッ 」グローガンの声とアンジェの叱咤が響く。
あいつ等このトンでもない事態に来たのかよ。酔狂な。
「けッ こういうときまで部下Aとか言われたくないですからねェッ 」はいはい。
剣や斧やつるはしを手に次々と湧き出す邪神の眷属相手に一歩も引かず戦うヤクザモノ共。
その側らでは赤子を抱いた上位巨人族の夫婦が微笑んでいる。
気のせいだろうか。肌を切り裂かれるほどの寒さと臓腑が裏返るほどの苦痛を感じると共に春の暖かさと花の香りのさわやかさが肺腑を満たす気がする。
恐怖で砕けそうな手足の骨を地の底から春を待つ草木の芽が支えてくれている感じがする。
激痛に喀血する喉元に甘く優しい香りが満ちる。灰色と血の赤の戦場に夏の緑が見えた。
秋の実りが満ちるこの世界は冬を待ち、冬を見送ってきたんだ。
冬は嫌いじゃない。冬は大事だと思う。
だけど今は涙をぬぐって見送りたいから。俺は友人の冬の精霊の横顔を想いながら呟く。
「春よ。来い」




