中篇 エピローグ もうどうにでもなーれ(やけくそ)
「どうして」「こーなる」「……ソフィアナ。後で覚えていろ」
神殿の皆や競売の野次馬連中を逃がすことに成功しにらむ俺たち。
俺たちの視線をにこやかに受け流し、片こぶしを数回上に突き出して「ふぁいとっ! 皆さんっ! 」とか言っている高司祭さまに俺たちは冷ややかな瞳をむけてやる。
地震はおきるわ、ねずみは列を作って逃げまくるわ、川は逆流してるわ、どうなってるんだよ。
「正直、こんな世界なんて滅んでいいと私は思っています」
高司祭さまはにこやかに問題発言をぶっぱなした。
「でも。ロー・アース様、トーイ様がくれたもうひとつの人生。
とてもキラキラしていて。楽しかったですよ。
悪徳と苦悩と苦痛、恐怖と絶望、憎悪と怒りしか私は存じませんでしたが」え?!
くすりと彼女は笑ってみせる。
「思わず、『滅びないのもアリだな~♪ 』って思っちゃいましたから」???
「解説します。実は私は」「いつもバイト料ありがとうなのの」「ちょ……ファルちゃん」……。
ぺこりと頭を下げるファルコに『知っていたのかっ 』と驚くロー・アース。頷くファルコ。
あれ? 俺は確かにファルコから『高司祭さまに命を助けてもらったことがある』とは聞いて、それで懐いているのは知っているが。『何時』かは知らない……。ぞ。
「実は私の正体は白薔薇仮面さんなのです」「知ってる」「めっちゃ知ってる」「しってるのの」
しゅんと落ち込む高司祭さま。萌えてあげませんよ? 二一のいい歳なんだから落ち着いてください。
気を取り直して人差し指をたて、かわいくウインクをしてみせる高司祭さま。
「私は慈愛神殿の高司祭などではありません。本来は『真の女神神殿』の最高司祭です」
はい?
思考停止している俺の横で頭を抱える無気力男に、ぽんぽんと手を当てて慰める幼児の姿の妖精。
「ああ。言っちまったよ。この馬鹿娘」「いいんじゃない? ろう。どうせばれる」
「え~と。まさか普段バイト料を下さる闇医者兼闇司祭のお姉さまでしょうか」「ですよ」
高司祭さまは澄ましたお顔で恐ろしいことを告げた。
背教、異端審問、邪教崇拝、身分詐称、経歴詐称。
……『死刑』がダースあっても足りないんですが。それ。
てか。さっきから地震がとまらないんですけどっ?! あちこちから火が出ているんですけどっ?!
「目って? 」俺はどうでもいいことだが、核心部分を聞くことにした。
「私は視界の全ての生物を即死させる能力を『真の女神』から得ています」ちょ?!
「声を聞いた相手の聴力を奪ったりもできるな」ロー・アースの補足説明に口元が引きつる。
「あ、やりませんよ? ロー様やトーイ様に嫌われてしまいますから」……嫌われたらアンタ世界を滅ぼす気だったろう。マジで。
「そんなことしません」ぶうたれる彼女に俺たち三人の視線が重なる。
彼女の人差し指の指先同士が何度か触れ合う。「ちょっと……考えたかも知れませんけど」
「なんとかしろ」「なんとかするのの」「アンタ、『破壊の女神』は自分のボスだろ。何とかしてくれ」
嘆願する俺たち三人をよそに、急ぎ戻って調伏祈祷を行っている同僚たち、
祈祷を始めているであろう各種神殿の努力もむなしく、地震はどんどん強まっていく。
もう、どーにでもなーれっ!




