8 竜の秘宝
じゃらじゃら。王国大金貨に相当する魔導強化された金の貨幣。
俺はその貨幣を手にとって驚いた。王国一の金持ちのはずの伯爵家より金持ち。
そんなヤツは……そんなお方は一人(?)しか居ない。
竜の刻印のある金の貨幣。この貨幣が発行されている町は俺の知っている限りは。
「竜大公さまに借りたのか? 」「うんっ 」「おう。快く貸してくれたぜ」
竜族の秘宝マジすげぇ。手に入れた英雄たちが悉く殺される理由がわかるわ。
拘束具の辱めから高司祭さまを解放したロー・アースは優しく彼女を抱きしめる。
「どうして『瞳』を使わなかった? 」「……」ひとみ?
青い顔で震える高司祭さまを励ます二人。微笑ましい光景なのに心の隅に引っかかる。
そういえば高司祭さまは出会ったときから俺を知っている口ぶりだったし、
そういうことが前にもあったことがある。というか、あの無駄に優れた毒薬や病気への知識。
いくら本人が『いきおくれ』と色々気にしているとはいえ、医者としてみればはたちそこそこの小娘。
あの知識量と医療技術は人間の業とはとても思えないところが多々。
……まぁいいや。俺はバカだし。バカはバカなりに邪魔はしたくない。
俺とファルコは競売の連中をぶん殴ってカギを奪い取ると、
次々と同僚の手を拘束する手枷を外す。
仲間に揉みくちゃにされるが、まぁこれはこれでいいものだ。
というか、アンジェ。お前は逃げてなかったのかよ。
「ばーか。私は元々一晩銀貨一万枚。王国大金貨百枚の最高級よ。私が逃げるわけないじゃん」
恩義のあるジェシカやカレンを守るためにグローガンと絶縁してきたらしい。
「でも『年増』呼ばわりで一晩一千枚相当に値切られたのはナイショね」「レティッ?! 」
手枷の赤く血の残る傷跡をさすりながら同僚の一人であるレティシアは微笑む。
双子の同僚は一度に俺に抱きついてきた。どっちがどっちだか。
「あたしがミズホッ?! 」「おねえちゃんずるい。チーアは私の」誰がだれのだ。
カレンとジェシカは黙ってアンジェを抱きしめた。嬉しそうに悲鳴をあげるアンジェ。
カレンはさておき、ジェシカって素手で鉄の扉破壊するんだけど……まぁ止めないでおく。あえて。
「はいはい。金は持ってきたし、これで慈愛神殿の焦げた手形は回収できた。
ちゃんと薪の目処はついたし、今回の騒ぎは収束収束」
ロー・アースがヒラヒラといい加減に手を振りながら二コリと俺に微笑む。まぁいいけどさ。
呆れる俺の腰をつんつんつつく感触。
ふりかえるとファルコ。「つらいねぇ」……何がだ。泣くぞ。
まぁこういうのをハッピーエンドって言うんだろうな。俺はそう思いながら仲間たちから胴上げを食らっていたのだが。
……食らっていたのだが。




