5 ご武運を。ユースティティア
からん。壊れた木椀を蹴ってしまった俺は。
「俺たちの神殿だよな……」「だな」「なの」
あちこちに赤い札が張っている神殿は見るも無残だった。
神殿の中に足を踏み入れたが、警護の神官は一人も居ない。
『差し押さえ』の赤い木札が子供の縫いぐるみにまで張ってある。
「ふええええええん!!! チーアッ!!!!! 」「ロロッ?! 」
物陰から飛び出してきた孤児院の子供たちに囲まれてしまった。
「高司祭さまが」「カレンお母さんが」「ジェシカおばちゃんが」
……カレンより年下なのにおばちゃん。見た目も若いのに。ジェシカは泣いていい。
「またここに来て……チーアさんッ?! 」
有力貴族の娘だが酔狂にクッキー屋を営む娘。ミリア。
彼女に事情を聞いた俺は予想通りといえばその通りの話に眩暈を感じて彼女に助け起こされてしまった。
「『求む花婿。オークション形式』……なの」
ファルコが子供たちが差し出したビラを俺に見せるが俺は文字が読めない。
下級神官たちのほとんどは難を逃れるために素早く引き払わせたらしい(夜逃げとも言う)。
「ぼく等は伯爵様が」「わたしはオルデール様に」
ロー・アースの友人の親父やミリアには本当に世話になる。
「でも、ここがいいの」子供たちが呟く。
俺はロロの頭を擦るように撫でて教えてやった。
「安心しろ。ドワーフの火墨を手に入れた。もう神殿を売らなくていいぞ」
喜ぶ子供たちを抱きしめていると、ロー・アースとファルコは既に発った後だった。
「行くのですか」相棒の白馬、シンバットを呼び彼に跨る俺にミリアは問いかける。
「そりゃ勿論。後の始末と、金回りは任せた。
火墨……。ドワーフの燃える石は莫大な利益をもたらすけど、使い方を誤るなといわれたよ。
世界が変わるほど恐ろしい代物らしい。ミリアの家なら安心だ。
ロー・アースには悪いが伯爵家のほうは大喜びで使いまくりそうだし」
「無責任で、いい加減です。貴女は」「ん? 」
パァン。
渇いた音が俺の頬からなった。
涙を流す彼女を見て、頬の熱さに気がつく。
「好きにすればいいのです。後始末後始末。お礼だけで女の子が動くとか思わないで下さいよ? 」
ご武運を。ユースティティア。
「おま、俺が女だって……」
柔らかい感触が俺の唇を覆った。




