2 高司祭さまを救え
ジロジロと『孔雀石』を見てしまう。
ベルトのないゆったりした麻のロングスカートに毛糸の服。
あと、心持大きくなった。胸。
照れたように目をそらす髭面はさておき、
俺たち三名は照れて目をそらそうとするドワーフに両の腕を絡めてみせる『孔雀石』を呆然と見ていた。
二人の愛は本物だ。そうでなければ子は授からない。二人とも妖精族だし。
ただ、属性が合わないので抱き合うだけで計り知れない嫌悪感を感じるはずなのだが。特に女性側。
「凄く怖かったんです。でも彼はとても優しく、力強い腕で包んでくれつつ、重さを感じないように細かな配慮も……」ちょ?!
「学術的に非常に興味があるが、頼むから子供二人の前でそういう話は勘弁してくれ」
普段無関心な男も流石に苦言を放つと、二人は一気に頬を赤らめた。
ところで。なぜそこで足元で拍手している。ファルコよ。
お前はどんな話題をしているのかわかっているのか。ファルコよ。
そ、そ、それよりだ。
思わず生々しい想像をしてしまって俺の耳まで赤い。
いや、経験はないぞ?! アンジェにちょっと何度か襲われたとか、その前に男女問わず犯されかけたとか、親父に『一緒に風呂に入ろう! 』と胸を揉まれて殴ったとか、宿屋で一休みしてたら親父が娼館行って居ない隙に相部屋にされてやっぱり『同じベッドに寝かされそうに』なったとか、仲間二人と最初は打ち解けることが出来なかったとか……何考えているんだ。俺は。
「チーアには刺激が強いらしい」
親父と絡み合う娼婦たちの様子とか、親父がナンパした酒場娘との絡みとかを思い出して悶々としていた俺の横で変な事を言うロー・アースはとりあえず足を踏んでおいたが、ヤツの靴には鉄が入っていたらしい。
「なんで~? のして~? 」首をゆっくり右左に傾けながら愛嬌を振りまく幼児姿の妖精族。
それは『どうして』だろ。ファルコよ。「そうとういう」それは総統だ。
「そっと耳をすまして」「それは遠い音楽だ」
じゃれあう俺たちの頭がごっつんこ。うずくまる俺たちを他所に無気力な態度はそのままにロー・アースが話を進める。
「『イルジオンの館』で来たのか? 」
イルジオンこと『まぼろしのもり』はエルフの大魔導士だ。森から森へ瞬間移動できる館を持つ。
「ええ。皆さんを迎えに」「急ごう。慈愛神殿の高司祭さまだったっけ? チーアの恩人」ん?
逡巡する二人を見て、急に俺の胸が動悸を始める、喉と目が乾く。まさか。
「自らを競売にかけたと」なっ?!
「評判の聖女が自らの処女を売るということで嘗てない予想額になっているらしい」……。
足元がおぼつかない。胃の中のモノを全部吐きそうだ。
血が足りネェ。頭がふらつく。なんだってそんなことを。
俺の身体をそっと誰かが支えた。ロー・アースとファルコ。
そうだよな。ロー・アースは心配だよな。
狼狽と怒りの表情を浮かべた男は、それでも俺に微笑んだ。
「大丈夫か。チーア」自分の恋人の心配をしろよな。お前は。
「だいじょうぶなのの。ちゃんといいようになるのの」
ファルコはそう呟くと、ニコリと微笑んでくれた。




