第一部 最終回 ともせ。希望の灯を。(中編) プロローグ エルフとドワーフの夫婦ってありえない
この樹の周りで三回回って。「二回だな。チーア」……この樹の股を通って「こっちなのの」
エルフの道ってややこしい……しかも彼らには本来道など不要なのだ。
なんせ森の木々が勝手に路を作ってくれる。にもかかわらず樹の前で待っていたというお袋もアレだが。
で、こっちの小さなせせらぎの精霊に貢物をしてっと。
俺たちは貢物として件の魔物の毛を捧げる。
「小さな水の乙女よ。我等三人をエルフの許に導きたまえ」
せせらぎは向きを変え、この世にしてこの世ならざるエルフの集落へ俺たちを導く。
集落と言っても彼らは家を作る習慣が無い。だが空気が明らかに違うことだけはわかる。
ロー・アースが前に出て、古の魔導士とエルフの契約の歌を歌う。
爽やかで優しい香りが、彼の心を蝕む暗い罪を洗い流していく。
俺とファルコはお互い頷きあい、それぞれ竪琴と横笛でエルフをたたえる。
竪琴の繊細な音と、横笛のシンプルで楽しい音につられ、エルフたちは木々の隙間から姿をみせだした。
「試練を潜り抜けました。古のひとたち」俺たちはその場にひざまづく。
「頭をあげなさい。人の子、我等の子」伝説に謳われる月の音楽は本当に素晴らしいものだった。
彼らが奏でる風や土のときめき、木々のささやきは俺たちの拙い音楽を支え、包み、それ以上のものにしていく。
ひときわ強い燐光を放つ青年は俺たちに近寄り、金色の樹の枝を振る。
さわさわと音がして、何処からともなく薪と芝が集まってくる。
俺たちは使命を達成したらしい。思わず微笑んでしまう。
「『かんもりのみこ』の娘よ」は? はいっ?!
「お前の求めるほどは恵みを与えることができぬ。君の友人にも頼むとよい」?
「ドワーフがもつという、『燃ゆる石』を手に入れよ」???
「どういうことですか」思わず彼の瞳を見てしまう。優しい光を帯びたその瞳を。
「我が妹の子よ。私はお前を見守っている」え?
「おじ、さん? 」狐に包まれたように問い返す俺に彼は金色の枝を振り。消えた。
先ほどのことは夢か現か。森の広場で呆然としている俺たちに背後から声がかかった。
「チーアさん。ファルコさん。ロー・アースさん。皆さんお久しぶりです」




