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男装女神は14歳っ!?~夢を追う者達(ドリームチェイサーズ)冒険譚~  作者: 鴉野 兄貴
ともせ。希望の灯を

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9 魔物だーーーーーーー!

 いつの間にか俺たちの荷物を持っていた驢馬が消え去り、

ファルコの首筋にいたちの子供がマフラーのように巻きついていた。

「あれ? ライトと荷物は……」その言葉を俺は飲み込む。


 『不吉』の臭いに眉を顰め、声無き悲鳴と罵声、恨み声に耳を塞ぎたくなる。

意図せぬ恐怖に肌が泡だち、血の匂いの味が舌に蘇る。


来る。


 俺は弓を無言で引き絞ると、あたりをつけた場所に撃つ。

果たして、俺の矢は音もせず死の見えざる光を放って森の暗闇の中に消える。

仕留めそこなった。二の矢を放つ前にファルコがダートを投げた。


自由と無法の神の二枚舌にかけて。 くそったれッ 橋の上に出るって言ったじゃないかっ?!


「来るぞッ 」


 ロー・アースが警告を放ち、

彼の二本の剣が魔導の円とともに煌けば、剣の動きによって生まれた光が周囲を貫く。

前、後ろ、前後左右に魔導の光の玉が生まれ、

四方八方から闇に慣れた人間の瞳を焼くが、

エルフの血を持つ人間は視覚のみには依存しない。


 魔導の光に瞳を焼かれながらも猪のように突進してくる大きな影は、

猪よりも遥かに大きく、重く、木々を吹き飛ばすほどの破壊力を持っていた。


「『転倒』ッ」


 土を盛り上げたり、盛り下げたり、木々を操って脚罠をかけるだけの下らない術だが、

使い方を誤らなければ地形を操る土の精霊や木々の精霊の術は絶大な効果を発揮する。

俺たちをひき潰そうとする大きな影は大きくその突進の方向を剃らし、俺たちのすぐ傍に停止した。


 咆哮をあげる魔物に俺は、俺たちは叫ぶ。

「エルフの依頼により、貴様を倒しに来たッ 」

「『妖精如きがこの私に勝てると思うのかッ』」驚くべきことに魔物は精霊の言葉を理解した。

脳に直接響く悪意と殺意、ヤツが脳裏に浮かべる舌に広がる俺たちの『味』に眉を顰めつつ銀の短剣を構える。


「ドライアドこと『かんもりのみこ』の娘。ユースティティアが森の精霊に願う。我に、我が友に加護をッ」

さわさわと騒ぐ森の木の葉の擦れる音が、俺たちの疲労を癒し、勇気と力を与えてくれる。


 業火と共に吐き出された火球にファルコが小さな短剣と黒い盾を手に立ちふさがる。

ロー・アースの『抗魔呪』を受けたファルコの盾は火球を川の流れのように真っ二つに分け、

ファルコの小さな小さな身体は魔の炎に晒されつつ、傷つくことを知らぬかのよう。


 「ろぅ! 」

炎をかいくぐり、二本の剣を持ったロー・アースが迫る。

『獅子殺し(ライオンスレイヤー)』の剣は魔導の光を込めて怪物の爪をかいくぐり、その手首から緑色の血をほとばしらせる。


 俺は魔導強化された銀の矢を三本同時に番え、一度に放つ。

ロー・アースに向けて放った矢は、すんでで身を翻した彼の背をすり抜け、怪物の強靭な毛皮を傷つける。


 「『こんな矢でこの私を殺せると思うかッ 』」

嘲る魔物が炎を再び吐こうとする。しかし、コレも伏線。

ロー・アースの背を蹴り、木々の枝を蹴り、風を蹴って空を舞う小さな小さな影。

「てぇいっ! 」盾で横面を張り飛ばすファルコの一撃で火球は辛うじて剃れる。

ぶすぶすと焼ける森。動くことも逃げる事も叶わぬ森の木々が痛みを訴え、根から水気を吸い、燃えまいと抗う。


 魔物は獅子に似ていた。

鉄より硬い紫の体毛。背中に邪眼を持つ山羊の頭、炎を吐く獅子の首、尻尾に生えた毒蛇の頭、蝙蝠や竜を思わせる翼を除けば。

翼があるにもかかわらず猪よりも早く駆けぬけ、山羊の瞳は俺たちを見据えて動きを封じんとし、尻尾の毒蛇は後ろからの攻撃を許さない。


 体のあちこちが軽い火傷に苛まれながらも俺たちは動くことを辞めない。

森の加護は伊達ではなく、一瞬で消し炭になる俺たちの運命を変えた。


「絡めッ 木々ッ 」


 俺の短剣が指し示す先の魔物に、焦げた臭いを放ちながら森の木々が絡み付こうとする。

動きを封じられたはずの魔物は自ら燃え上がって見せた。勿論魔物は自らの炎では傷つかない。

声に出せぬ苦痛の声を上げ、地から吸った水気を必死で吸い、俺の魔力を糧に憎き敵に恨みを込めて締め上げようとする木々を焼きつつ、魔物の爪は、炎は出鱈目に俺やファルコやロー・アースに迫る。


 火球を切り裂き、出鱈目に剣を突き立てるロー・アース。

火球をかわし、盾で打ち返し、短剣を閃かせるファルコ。その短剣が敵の瞳の光を一つ奪う。

鮮血と恨みの声、血の香りと喉を焼く悔恨の味。この期に及んで俺は殺生を嫌うらしい。

獣の命を生活のために奪ったことはいくらでもあるが、言葉を話すものを倒すのは少し違う。

敵が言葉を話すが故に、俺たちも魔物に近づく気がする。


 眉間を狙い、矢を放つ瞬間のタイミングを読まれ、俺に殺到する魔物。

その動きが止まる。弓ではなく俺が持ったのは竪琴。ファルコの竪琴だ。


 喉から洩れる俺の歌声は本来人を楽しませ、喜びの足踏みを奏でさせるための呪曲。

しかし、全身をぶすぶすと焼かれながらも立ち向かう木々に絡まれながら踊る行為は自殺に等しい。

身体を、骨を砕かれ、もんどりうたんとする魔物の心臓を狙い、ロー・アースの剣が貫き、

光となって宙を駆けるファルコの短剣が死に際の業火を放とうとした魔物の喉を貫いた。


「『私を討った人間共……。君たちは何者だね』」血を吐きながら山羊の頭が呟く。

「『夢を追う者たち(ドリームチェイサーズ)』だ」俺たち三人は小さく呟く。


「『……"不幸を、幸福にする”冒険者か。

人間の欲で生まれ、世界から阻害され、魔竜としての運命を呪う日々だったが。

やっと、ただの獣になれそうだ』」


「余計なことは言わなくていい」俺は、俺たちは一様に呟いた。

俺の矢が『彼』の残る瞳を貫き、ロー・アースの剣が喉を切り裂く。

ファルコの短剣が俺の首筋を狙う蛇の首を跳ね飛ばす。


「『安らかに大地にかえれ』」

『彼』を丁重に葬り、心臓に印をつけて彼の呪われし魂を森の精霊にかえすと、

俺たちはエルフの依頼を果たした印と言い訳しつつ『彼』の毛皮を剥いで明日の糧とする。

どっちが魔物だか、わかりゃしない。

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