5 説得
「お父様。砒毒という毒がお山から出ているのですっ!!」
『孔雀石』さんが父親と揉めている。どうもこの親子が口喧嘩をするのは珍しいらしい。
まぁドワーフは寡黙だから『孔雀石』の一方的勝利になってしまうし、
殴り合いなら魔法を使っても『孔雀石』が負けそうだ。
「砒毒。か。
だが、それは早い話が『藍銅鉱』が焼いていた団子から作った薬なんだろう?」
村長はさほど気にしていないようだ。
「それならば、取り扱いさえ気をつければ無害だ。子供も食べないようにしているしな」
ああっ?!もうっ??それがどうやってか村中に流れている可能性があるんだよっ?!
「……『藍銅鉱』がもう作らないと言っているなら今後、呪いも収まるのではないのか?」
いや、そうじゃない。あの鉱山の土に砒毒の元が混じっているんだよ。なんていえばいいんだか。
ああっ?!もうっ?!この場に放浪癖の兄貴がいれば楽に解説してもらえるのにっ?!!
「事態はそう甘くない。"浄水"を使ってみたんだが、ズリ山の土の中に毒が混じっている」
ロー・アースは咳払いして軽くしゃがみこみ、村長に視線を合わせる。
「わかった。今後ズリ山に近づく子供は厳しく叱ろう」
「お父様。それは無理かと」
村長に苦言を示す『孔雀石』。
「生き埋めになりかけて尻を百回叩かれた次の日には遊びにいった莫迦娘がいるからな」
「お父様っ?!」
……すんげー。……らしいエピソードです。
「いえ、それでは足りません。チーア。説明を」お。俺??
「えっと、チーアといいます。あまり言いたくありませんが医者の卵でもあります」
「こんな子供が??」
不思議そうに目を丸くする村長。だから黙っているのに。
「えと……ズリ山には毒が混じっています。
この毒が雨水に溶けて里に流れていると思います」
「思うでは困るな。そもそもズリ山が毒なら近づかなければ済むこと」
くそっ。なんといっていいんだ。
「だから、その毒が水に溶けて、里に流れているんだって!」思わず叫ぶ。
「水など誰もかけぬ」「雨がある!」
「雨は土に吸われて消える」「違うっ!土地に流れて全体に残っているんだっ!」
兄貴が言っていた。雨は消えない。土に流れ、土と共にあると。
「あと、鉱山を水源とする川にも……砒毒が混じっています」
ロー・アースが補足してくれる。
興奮する俺の脚にファルコが噛み付いた。
とりあえず蹴っておく。
下で「みゅう」と鳴いているが無視する。
「まさか。我らの技術は完璧だ」
「完璧な技術などないっ!!あんたらも知っているはずだっ!」
俺は大声で叫んだ。「そのイボはっ!ヒ毒の影響で出来るものだっ!!!」
「あんたの、娘も!ヒ毒を受けているっ!!たまたま毒が効かない体質だからなんとも無いだけだっ?!」
「呪いなんかじゃないっ!呪いなんかじゃないんだっ??!!!」
ハァハァと息を荒げる俺の肩を勝手に抱くロー・アース。
いつの間にか俺の足元にいて、また膝にしゃがみ付いているファルコ。
「……ですので、実証して見せます」「如何にして?」
ロー・アースの「実証」に興味をもったのか、村長が尋ねる。
「この村は鉱山を最上部として階段状に構成され、所々に石垣があります」
「うむ」
「この医師が言うには、石垣の上ほど毒が多い可能性が高いそうです」
「ほう」
「よって、作物を調査し、作物の出来が上ほど酷ければ」
「……日当たりやその他の条件もある」
それは俺も知っている。だが、この話は毒の量の話だ。
「そもそも、砒毒とやらは如何なる方法でも存在を調べられないというが?」
「"浄水"で毒があるかどうかはわかります」
「それが砒毒であると解るのか?"浄水"ならば娘も使えるが、あれは全ての汚れを消すのだぞ」
厄介だ。意外と理詰めで反論してくる。理屈が嫌いな種族の割に。
「砒毒は摂取量、摂取している期間で症状が変わります」
「ですので、畑の持ち主達、野菜を普段食べている家庭ごとに調査すれば」
多少はおすそ分けしあうだろうが、確実に差は出ているはずだ。
「……われらは大地の実りは分け合うのが基本だ。人間とは違う」
それ、わかるわけねぇ??!
これは、難航しそうだ。俺は頭を抱えたくなっていた。




