6 殺(や)らないか ウホッ! いいタキギ
「『ぎんのかぜ』か」
嫌そうに頭をかき、アパートメントの床(?)に座って耳に指を突っ込むロー・アース。
いつものやる気のなさげな態度だが、俺には彼の仕草が虚勢に見えた。
俺たちは前回ぶっ壊された兄妹の部屋にいる。
こっちのアパートメントは現在深刻な欠乏に町中が頭を悩ませている木材で出来ているはずなのに、
もう直ってしまっている。精霊の加護だろうか。
不安げな子供の声が聞こえた。
「おにいちゃん。私は席を外したほうがいいかな」
お菓子を持ってきた彼の妹、エフィーに「いや、不愉快な話だがお前にも話す」と返すロー・アース。
不安そうにエフィーを見あげるのはファルコ。「ろうはね。席を外してもいいって言ってるのの」補足説明がいるって面倒なヤツだよな。ロー・アース。
エフィーは華やかな笑みで流した。「うちのお兄ちゃんのことは、私が一番よくわかっています」との事。
いい子だよな。マジで。
ファルコとじゃれあっている姿に目を細める。ファルコのヤツ、いつの間に。
エルフと人間の間に争いがあった。
『キノコの魔方陣』『迷いの森』『魂の牢獄』や森の精霊に守られた森を人間が攻めることは無謀に尽きた。
攻めあぐねる人間の軍にいた一人の少年が何気に一言呟いた。『火、つけたら? 』と。
「失言だった」
悔しそうに呟く彼に俺は何も言えなかった。
『森』に囚われた魂と木々にされた肉体はいわば人質として機能する。
森をさ迷う魂はエルフと同じ時間感覚に囚われる。一日で反省すれば十年ほどで帰って来れるが。
「燃やしたのかよ」「ああ」なんてこと。
「止めたが無駄だった」
それでも自らの森を焼かれて神性を大きく損ねた『女王』の命をなんとか救って逃がした少年。
それが。その罪人が。
がたがた。驚いて振りかえると、エフィーが激しく震えていた。刃物を握り締め、尋常ではない。
ロー・アースを見ると悲しそうな目で妹を見つめている。
「エフィーちゃん? しっかりするのの」
ファルコの間延びした声でエフィーはハッと正気を取り戻したようだ。
「ごめん。また発作が出たみたい。お兄ちゃん大丈夫だった? 」「いや。いい」
ロー・アースの瞳は相変わらず空虚で、自分の死すら関心がない。そんな気がして俺は身震いした。




